十年前の住まい探し06

oshikun2010-02-03

 おっと風水、その手があったか。
「実際の敷地はどんなところだろう。歩いて行ってみるか」と、マンション「鷺宮A」の建設場所を聞くと、モデルルームが駅の南側だったのに対して、北側の新青梅街道の近くで、行くには踏み切りを渡る必要がある。
 その踏み切りのそばにあったのがマンション「鷺宮B」の案内所だった。これは誰もが知っている有名な不動産会社の物件で、その会社は当時モデルルームを作らずに、実際の物件をその代わりにする方法をとっていた。だからここにはモデルルームはない。チラリと見てパンフレットだけをもらうつもりが、今度は八嶋智人に似ている営業部員の魔の手に私は捕まってしまったのだ。彼曰く「ちょうど物件に向かう車で出るところです」。
 下井草駅のほぼ真南で駅から歩いて15分ほど、だから車なら早いはずが辺りは一方通行の道が多いので、到着するまであみだクジのように車は走る。建物自体はほとんど完成していて物件内のモデルルームもできているという。妙正寺川にも近い。他の不動産会社は建物がない段階で売り始めるのから、これだと大きなリスクを背負うことになる。それは当然、その価格にも反映していると思うのだけど、どうだろうか。
 「いえいえ、実際の物件をお客様にご覧いただけてから、ご検討されるのがより丁寧なご案内であると思いますので・・・」と車中の八嶋智人似がいう。
 車が物件に到着すると、デザイン的にはイケてるエントランスで、たくさんの営業マン&ウーマンに迎えられた。そして1階のモデルルームへ。これは何のヘンテツもない田の字型の物件である。ドア近くの部屋は日当たりが良くない。しっかりと陽が入るのは、リビング&ダイニングと隣の部屋だけ。価格は5000円台前半から後半、床面積は80㎡ほど。
 「なんだ、つまんない」とは口にはしないが、顔には出てしまったようで、八嶋智人似は「どんな間取りがお好みで」と私の顔をのぞき込む。
 「やはり、ちょっと個性があるのがいいかなぁ」ととりあえず答える。やはり大金はたいて買うとすれば、何のヘンテツもない部屋を選びたくはない。こんな部屋に結局落ち着つく人も、いろんな紆余曲折とさまざま事情と、そしていく筋の涙を流してからのことだろう。私はそんな事情とやらは、あんまり抱えていないので、発言もいい加減である。
 営業マンはそんなアバウトさを見透かしたように、「いいのがあるんですよ」といって図面集を広げた。そこには確かにちょっと変わって間取りが載っていた。
 「最上階の物件で、東側には広々としたバルコニー、そしてお風呂にはなんとマンションには珍しく窓が付いています」
 確かにちょっとだけ面白い。この間取りの物件は2戸で、すでに1戸は売れているという。風呂に面する建物やリビングの日当たりを考えると残った物件の方が条件はいいと思うのだが、あちらを買った人はなんと風水で選んだという。おやおや、まったく違う価値観を持った人が、同じような物件に価値を感じたというわけだ。うーむ、敵も然る者でゴワス。