2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『第2会議室にて』27

2008年7月21日① 組合執行部委員長の中西信也は、午前中からずっと石原信二取締役の様子を窺っていた。今日は組合の質問状への回答の期限だった。しかし彼はいつものように、そしてそれがまるで仕事でもあるかのように、ネットサーフィンをしているだけだった…

ひさしぶりのあの快感

アマゾンから荷物が届く。最初にテーブルの上に置いて、商品を書斎の机の上へ、袋はゴミ箱へ、送り状は一応とっておく、そしてテーブルに戻ってくると、そこにはプチプチが一枚残っていた。しかしこの正式名称はなんなのだろう。 「あっ、そうかこれも入って…

『第2会議室にて』26

2008年7月17日⑦ 福田和彦を見送って、もう一口煙草を吸い込むと残りは僅かだった。それを灰皿に落として、村上悟は自分の席に戻ろうと思った。すると今度は、河北たまきが喫煙コーナーに降りてきた。村上は彼女と、夜ここで会うことが多い。組合執行部で煙…

白い花はどこへいった

少し前のことだけど、近くの公園にいったら、白い花が見事に咲いていた。 白いツツジなんだと思う。 写真を撮ったのだけれど、ちょうど影になってしまって、イマイチな結果。 そこで、数日後にまた出かけてみたら、花はどこかへいってしまったあと。 花との…

『第2会議室にて』25

2008年7月17日⑥ 午後7時を過ぎた。福田和彦は次に発行される雑誌の担当ページが、どうにかまとまったので、デザイナーに届けることにした。会社を出ると、エントランスのすぐ横で村上悟が煙草を吸っている。社内は禁煙なので、愛煙家は煙草を吸うためにこ…

クルマに関するエトセトラ02

みんな太ってしまった。 昨日はとっても眠くて、かなり雑な文をアップしてしまったが、今日はその続き。 6年前のクルマの買い替えは趣味的なそれではなく、必要に迫られたもの。というのも、それまで足掛け17年ほど乗っていたクイント・インテグラに、致命…

クルマに関するエトセトラ01

未来でなくなったクラウン 6年ほど前に、今のクルマに買い換えた。2002年の春である。それまでは1986年のクリスマスから、なんと足掛け17年もクイント・インテグラに乗り続けていた。まあ、そのインテグラについては別に話す機会もあるだろう。とりあえずは…

「おいしい」記憶はそのままの方が「おいしい」

先日、買い物を頼まれてレジに並んだとき、ふと目の前に板チョコレートがあることに気がついた。そして微かな迷いのあとに、その一枚をカゴに入れていた。さてチョコレートを買ったのはいったい何年ぶりだろう。 こどもの頃は、大人になったら大好きな食べ物…

『第2会議室にて』24

2008年7月17日⑤ 福田和彦が席に戻ってしばらくすると、向井良行が取材から帰ってきた。向井は福田の隣の部署で、主に高級輸入車を扱う雑誌を編集している。 聞けば、朝5時から内房で撮影してきたという。陽射しが強かったらしく、顔や腕がすでに赤くなって…

天頂の小さき窓ひとつ

『マルクス・エンゲルスと革命ロシア』 和田春樹(勁草書房・1975年) 1868年に、ペテルブルグの相互信用組合に勤める一青年、エヌ・ダリエリソーンからマルクスに一通の手紙が届くところからこの本は始まる。精緻な論文であるにも関わらず、この手紙がこれか…

一丁目の夕日

5月の夕日は美しい。 いやホントは夕日そのものが美しいのだが、またまたそれに出会えたということか。 ふと気づくと飛行機雲が、銀色のスジを赤いキャンバスに刻み込んでいる。 太陽が傾くにつれ、雲に隠れるにつれ、空全体の様相が青から赤に変わっていく…

『第2会議室にて』23

2008年7月17日④ 太田章が藤田浩二の机の前で油を売っていると、社長室から取締役のひとり小塚一良が憮然とした顔で出てきて、足早に上の階に戻っていった。そして2、3分後には取締役のもうひとり石原信二がにやけた顔で出てきて、自分の机に座ると猛然と…

月はどっちが欠けている。

16日の夕刻に西の空を見上げると、月と明るい星がすぐ近くにあった。これだけ明るく輝いく西空の星となると、まず間違いなく金星である。 そう、当日は日々の天体ショーをフォローしている現役の天文ファンには、先刻承知の金星食の日だったのである。金星食…

いずれアヤメか、カキツバタ

散歩をしていて残念なのが、道端で出会う花々の名前を、ほとんど知らないうことだ。だからすれ違い際に、「まあ、キレイな××の花!」なんていう言葉を残していく人がいると、なんともうらやましく思う。 そして実際、このブログを始めた頃にアップした花の名…

『第2会議室にて』22

2008年7月17日③ 労働協約をやっと手に入れた石原信二が社長室に戻ってきた。するとソファに座っている社長の東山徹三は、座り直した石原と小塚一良の二人をにらむようにしていった。 「コピーを取るのに5分、その書類を取ってくるのに10分、きみたちの頭の…

避難所で読書

今年の「暑くもなく、寒くもなく」という日は、意外にも天候不順のせいか多いような気がする。そんな日はウチの狭小ベランダに出て読書を楽しみたい。ここは地上の喧騒が微かに聞こえてくるが、逆に部屋の中の「喧騒」からは離れることができる。いわば私の…

キラキラ光るモノ

テレビで爆笑問題が筑波のJIXAを訪ねて、HTVを見上げている。そうあの国際宇宙ステーションに物資を運び込む、補給用の人工衛星だ。まずはその大きさに圧倒される。全長は約10m、直径は約4.4mだという。かの「おおすみ」から遥か遠くへ来てしまった…

『第2会議室にて』21

2008年7月17日② 組合の質問状を持った石原信二と小塚一良の両取締役が、社長室に揃って消えるのを見届けると、太田章はまた自分の仕事に戻った。手元には大人の字とは思えないほど悪筆な現金請求伝票の束がある。特に福田和彦のそれは最悪だ。もう少し字が…

幸せの中の不幸

改札口でスイカをピッとやり、ホームに向かうエスカレーターに乗った瞬間、下の改札あたりで、若い女性がはしゃぎまくっている。そしてその歓声そのものが、エスカレーターのすぐ後ろに乗った。内容は聞きたくなくても聞こえてくる。どうやら最初の歓声は連…

十年前の住まい探し35・最終回

次のターゲットは外房 さて、わけのわからない10年前の「住まい探し」の顛末を、ずっと書き連ねてきたけれど、いよいよそれも今回で最終回。これまでのお付き合いアリガトサンでした。 ところでこのマンションは前回に書いたように、個人的な感覚の減価償却2…

『第2会議室にて』20

2008年7月17日① 委員長の中西信也は出社すると、いつものように受信メールを確認した。緊急な要件が印刷会社の営業から入っている。こういったことが週に何回かある。そしてそれは月曜日に集中していた。キリキリと胃が痛む。すぐにメールの発信者に連絡す…

ピンク色に誘われて

陽気に誘われて、またまた荒川土手を弁当持っての散歩である。当然のことして、途中でお酒も入手。しかし前回のお花見のときは、帰路はヘトヘトになってしまったので、自粛して二人で500ミリリットル缶ひとつである。私は最初350ミリを買おうとしたのだが、…

「はい、私はアナタの気持ちが読めるのです」

飲み会に行ってきた。 気心の知れた少人数での飲み会である。やがて十年以上前の、私のほんのちょっと艶っぽい話題となった。しかし当人はそのことをまったく憶えていない。もしこの話にならなければ永遠に記憶として残らなかったことだろう。ただ残念ながら…

十年前の住まい探し34

ひと月1万のおいしい話 前の書き込みの最後で触れた200万円の中身を繰り返す。 今回買ったマンションの居住性を賃貸マンションで実現するとなると、いろいろな経費と込み込みで年間300万円ぐらい掛かるはず。そこからこの分譲マンションに掛かるいろいろな…

『第2会議室にて』19

2008年7月14日④ 第2会議室全体が夕日のオレンジ色に満たされていた。窓の外はだいぶ暗くなってきたようだ。太田章が立ち上がって照明のスイッチを入れた帰りにいう。 「そうかぁ、井戸か。そうすると今度の合併で、水を汲み出す人がずいぶんと増えるわけだ…

佐々木譲さんを読む 06

佐々木譲さんの直木賞受賞後、初の連載小説が「小説新潮」で始まった。『北帰行』(角川書店)の帯には、「受賞後第一作」と銘打ってあるけれど、その作品は「本の旅人」で連載されていたものなので、「その後」というと、この「小説新潮」の『警官の条件』…

タンゴの節句

さて、こどもの日である。 「私がこどもだった頃」、このこどもの日が妙に不可解であった。というのも、こちらは男の子の節句でお休みなのに、どうして女の子の節句の3月3日はそうではないのか、ということである。ただし、その頃通っていた小学校は、毎年…

桜の季節は続く

桜の季節はあっという間に終わった。 というのは、桜に失礼かもしれない。 正しくは、桜の花の季節、というべきだ。 それでも、今年の桜の花の季節は長かったように思う。 このブログでもずいぶんと書かせてもらった。 もちろん、「桜の花のなかりせば、いか…

『第2会議室にて』18

2008年7月14日③ 「その頃の会社のシステムは、今よりもずいぶんとシンプルだった」 福田和彦の話に村上悟が頷く。あの時代を知っているのは、このふたりだけということになるのだろう。今の東山社長とはまったく違う、田中社長の不思議な時代のことだ。 「…

十年前の住まい探し33

あいまいな200万円の意味 そして8年近くの歳月が流れた。くわしくいうと、マンション「浮間舟渡B」に引っ越してきて、今年の8月末でまる8年になるということだ。このマンションの月々の管理費や駐車場代などは5万円台半ばだから、年間にすると65万円…