2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

十年前の住まい探し27

突然の進路変更 前にも書いたようにこのマンション「浮間舟渡B」の断面は、正方形に近い長方形の角を斜めに切った五角形である。1対1.2の辺をもつ四角形のひとつの角を、一辺は半分、もう一辺は四分の三ほどの場所で折り込んだカタチといったらいいのだろ…

『第2会議室にて』08

2008年7月10日④ 「それじゃ、抜けた石川さんが副委員長だったので、福田さんがそれも引き継ぐということでいいですね」 委員長の中西信也がいう。 「石川さんって、副委員長だったのか。それじゃまあ、しょうがいないだろうな」 「それすら知らなかったんで…

浅草土産は水上機

先日、フラリと浅草に出かけた。何年ぶりだろうか。 子どもの頃にはよく親に連れられてきていた。松屋の屋上や新世界では、いろいろな遊具を思う存分楽しんだはずだが、記憶そのものがかなり夢うつつになっている。それでも松屋の方は何枚かの写真が残ってい…

十年前の住まい探し26

デメリットを有効活用 マンションを供給する側にも、いろいろと都合がある。敷地面積の大きさだとか、その土地の法的な制限や、パチンコ屋や公園の有無といった周辺環境のデメリットやメリットなどなど、いろいろな都合を彼らはまるで食材のようにキッチンに…

『第2会議室にて』07

2008年7月1日② 福田が会議室に入ってくるのを待ちかねたように、5つの顔が彼の方を向いた。内線をくれた太田と制作部の中西信也、広告管理部の村上悟、外車雑誌編集部の向井良行、そして2輪編集部紅一点の河北たまきの5人だった。部署の名前を思い浮かべる…

バナナケーキの夜

昨晩はずっとバナナケーキ作りに費やされた。 食事のあと、突然のバナナケーキ宣言。しかも私も手伝うのだそうだ。名誉なことである。小麦粉をふるい(たぶん別の名前があるのだろう)のようなものに通す。ふるいを揺らすと、あら不思議、微細な粒の中から、丸…

『第2会議室にて』06

2008年7月10日① 5ヶ月ほど前に話は戻る。 福田和彦はパソコンに向かっていた。画面には、走っている自動車が小さく何枚も表示されている。プロのカメラマンが撮影したので、そのほとんどはしっかりとピントが合っている。福田がその中の一枚にカーソルを載…

春風の力だめし

昨日、ちょこっと散歩に出かけたら、近くの公園の大木がドーンと倒れていた。 昨年の10月8日のブログでも、台風でその並びの木が2本仲良く倒されたことを書いたけれども、今度は遂に残っていた1本も倒れてしまった。 ほんとうの森の木だったら、まわりの…

十年前の住まい探し25

効率性が創る消費者ニーズ まずマンション「浮間舟渡B」はよくある「全室南向き」神話と決別しなくてはならない。これはタワー型マンションの宿命である。ようかん型マンションのように直方体の一番広い側面を南側に向けて、そこにすべての住居のベランダを…

『第2会議室にて』05

2008年12月5日⑤ 「つまりは、こんなことだと思う」 福田和彦はまずそういって始めた。 自動車雑誌を主な媒体とする社員120名ほどのモータータイムズ社と、自動車のアフターパーツ関連の雑誌とモータースポーツ雑誌を主体とする社員80名ほどのカーライフ出版…

十年前の住まい探し24

コンセプトの発見 マンション「浮間舟渡B」のモデルルームで、ほんとうにフリの客であることを「事前公開」すると、「いえいえ、まったくかまいませんよ。ようこそいらっしゃいました。ぜひご覧になってください」と中江有里似の営業ウーマンがいう。 モデ…

『第2会議室にて』04

2008年12月5日④ 6人の組合執行部員たちは、打ち合わせスペースの丸テーブルをふたつ合わせて、そこに座った。それぞれが来るものが来たと思っていた。しかしその直前までほんとうに来るのかどうか、もしかすると来ないのではないかという、一縷の望みさえ…

佐々木譲さんを読む 05

佐々木譲さんの連載が「コヨーテ」で始まっていた。 現在店頭にある号で連載はすでに5回目である。譲さんファンとしては面目なしである。 さてこの連載は、既存の旅行記を4ページ展開でイラストを交えて紹介する企画なのだが、実はそう簡単なモノではない。…

ほしいのはキンかドウ

昨日、池袋を歩いていると、とある店のシャッターにはたくさんの貼り紙があった。 店の名前はキンカ堂。昨月に自己破産した会社だ。何が書いてあるのかと近づくと、そのほとんどが、キンカ堂への感謝と激励の言葉だった。 この池袋のお店は洋裁の素材などを…

『第2会議室にて』03

2008年12月5日③ 福田は、しゃべり続けるこの石原常務取締役の収入がいったいどのくらいなのか、本人を前にして考えていた。石原は1年ほど前、取締役になったときに退職金を受けとっている。その時はまだ福田は石原を信頼していた。ふた昔も前、福田が入社し…

ひと月後のその日

ひと月前のあの日、いろいろともらったので、 ほんとは今日、いろいろと返さなくてはいけないのだけれど、 突然、ふってわいた用事。 で、義務も義理もまだはたしてはおりません。 しばし、ご猶予をお与えください、な。

コンテナ・コレクション02

コレクション01が黄色っぽいグレーだったのに対して、こちらの02はほんの少し青みがかったシルバー。夕暮れ時の空の色にとても似合っている。 扉のブラックの縁取りとエンジの数字がかなり「オシャレ」だ。この数字が五桁なのが、なにやら宇宙船のドアみたい…

『第2会議室にて』02

2008年12月5日② 三ヶ月ほど前、労働組合執行部はこの合併に関する、あとから考えると最後の質問状を提出していた。ひと月後に返ってきたその回答は、いつものようにまったく誠意に欠けていた。 会社側は労働組合の質問に対して、なんら明確な回答を寄せるこ…

コンテナマニア宣言

近頃、東京の周辺でやたらと目にするのが、コンテナを利用した収納スペースだ。 扉は堅そうだし、夏は暑そうだし、雨の日は出し入れが辛そうだし、などと自分は遠慮したいと思っていたけれど、これだけ増殖するということは、それだけニーズがあるということ…

十年前の住まい探し23

「倉庫だから立ちません」 マンション「浮間舟渡A」は健康への配慮が一番の売りのようで、モデルルームにいた40歳前後の女性の営業担当は、壁紙や床の材質や空調については過剰に語りたいようなのだが、周辺の環境とか間取りの工夫とか価格の値頃感などにつ…

『第2会議室にて』01

このカテゴリー「お話、お話」はすべてがフィクションです。他のカテゴリーがほぼ本当にあったことを書いているのに対して、ここに書いていくことは、すべて私の妄想に過ぎません。しかし文章というものはえてして読み手に感情移入を要求し、さらにはそこに…

江の島土産は複葉機

江の島の土産といえば、しらすかサザエ、もしくは干物あたりが本命だけれど、私が買ったのはブリキの複葉機。それも全長30センチ以上とかなりデカイ。 ちょっと歩くと汗が噴出すような日に、ちょこっと江の島に出かけてきました。ただしその前に別のところに…

十年前の住まい探し22

「未知の駅」に到着 中野の営業所で私は八嶋智人似の営業マンと少し話をした。 彼はいう。 「感想を聞かせてください」 私は答える。 「マンション全体としては冒険しているし、一戸一個も個性的。だけど、廊下とリビングとの間にアールのある段差が付いてい…

バンスできない思い出

ある作家さんが自身のブログで『上海バンスキング』に触れているのだが、それを読んで20年ほど前の記憶が甦ってきた。 私が観たのは、たぶん1990年、渋谷のシアター・コクーンでの上演。ほとんど内容も知らないまま、人に連れられていったのだった。 …

十年前の住まい探し21

立体パズル感覚 八嶋智人似の営業マンが案内してくれた物件、マンション「中野A」は中野サンプラザの真裏、つまり住宅地とはほど遠い喧騒の中にあった。目の前に早稲田通りが走っている。工事中のエントランスも、マンションというよりは何かのお店の開店準…

冬のメタセコイア

近くの公園にはメタセコイアが何本も植えられている。 この木の名前を覚えたのは、そこに名札があったからだ。最近、とみに木や花の名前を覚えたいと思う。 ただそう思うだけで、実際には何もしていないのだが。メタセコイアの幹の上の方には、丸い実のよう…

「ひな祭り」から遠く離れて

今日は「ひな祭り」ってことで、ウチでもこんな桜餅(下の写真)を食べたのではあった。 しかし、食べてフト思う。そもそも「ひな祭り」とはなんぞやと。このあたりをネットで調べたりすると、迷宮に入り込みかねないので、古式ゆかしく辞書で調べてみると、い…

十年前の住まい探し20

別のメガネとしての営業マン さて、話はまたマンション「鷺宮B」に戻る。 営業マンの八嶋智人似クンも大変である。この項目の17で書いたように、上司の営業部長氏のおかげで、彼の営業努力も海の藻屑と消えてしまったのだから。 ただ一言を付け加えて置きた…

十年前の住まい探し19

中古物件の属性 中古マンションの情報は、ネットからの入手方法もあるのだけれど、私の場合はチラシに頼っていたようだ。当然チラシだと自分の住んでいる周辺の情報しか掴めない。そういったことからいうと、それは購入というよりも、好奇心を満たすためだっ…