2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

進攻なしの撤退もありや

長い間、いつも楽しみに読ませていただいていた岡崎武志さんのブログが、今日で本に関する記述を終了するという。 とても残念だ。果たして「本に関する」ことの範囲がどこまで及ぶのかはわからないが、そういった内容は、すべて「本の雑誌」関連の有料サイト…

コロリョフからの伝言

文学フリマで大森望さんと立ち話をしたときに、『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』をお勧めいただく。恥ずかしながら読んでいなかったその本を数日前にやっと購入。まずは巻頭の「主任設計者」。 このタイトルを見て、ロケット好きの各位はとうぜんのことな…

時代の煙たさ

昨日書いたこととは別件なのだけれど、故あって偶然にも、30年と少し前の日本を舞台にしている小説を読んでいる。 主人公は30歳になるかならないかの若者で、彼が数年前のことを回顧しつつ、すでに老成というか、達観というか、そんな感じで時代を見てい…

あの駅は埋められていた。

30年ぐらい前の、しかも東京のお話を書いているのだけれど、自分がしっかりそこで生きてきたくせに、なかなか時代考証がたいへんなのです。 例えばとある駅の描写なんだけど、書いたあとで、いまは地下化されていることをハタと気づき、慌ててそれが何年頃…

風の記憶

風が気持ちいい。 一年のうちで、こんな時期がずっと続けばいいと思えるような、ここ数日間。 でも、そう思えるのは、たぶんあの冬やその夏があるからこそ。 今日のような一日が、もし365日も続いてしまったら、この風の気持ちよさに気づくこともない。 …

残り時間と好みとの関係

先週、映画「アーティスト」を観る。ツレがどこかの映画紹介欄で、「観たい」と決めたらしい。近所の新宿ピカデリーでは、もう一日二回の上映しかしていないので、そろそろ公開も終わりかと慌てて出掛けてみた。 はい、夫婦割引、ふたりで2500円である。…

今度もごいっしょさせていただきます。

SFマガジン七月号が届きました。ありがとうございます。 その巻末には昨日書いたように、拙作の「『惑星ソラリス』理解のために[二]――タルコフスキーの聖家族〈前篇〉」が掲載されています。ふう、タイトル書くだけで面倒。 でツイッターのほうにはだい…

ヒデオテープとブリューゲル

25日発行のSFマガジン7月号には、先月号に引き続いて、拙作の「『惑星ソラリス』理解のために[二]――タルコフスキーの聖家族〈前篇〉」が掲載されます。 前回はレムが『ソラリス』に込めた主旨について、ロシア版での検閲を巡りつつ書いていきましたが…

検閲官のプレゼント

SFマガジン6月号に掲載された拙作「『惑星ソラリス』理解のために[一]――レムの失われた神学」に触れて、作家の牧眞司さんが自身のツイッターで、『ソラリス』を再読したくなった、とつぶやいていらっしゃいました。たいへんありがたいことです。 すでに…

ありがとうございます。

ツイッターではもうつぶやいたのですが、作家の森下一仁さんが、「小説推理」6月号の「今月のこの一冊」で、SF短編のアンソロジー『原色の想像力2』(東京創元社)に触れていただき、拙作の「ものみな憩える」へも心地よきコメントをいただきました。あ…

排水パイプ越しのデーヤモンド

「ちくしょう、晴れているじゃないか」 あれだけ天気予報で「明日の朝は曇りです」と連呼されてて、淡い期待などどこかへ飛んでいってしまう。でも空はどんよりとした雲ではなく、ところどころに薄い雲を用意しただけだった。 昨晩は何も準備をしていなかっ…

明日の顔の口から出ているモノ

そんでもって、太陽の塔の眉間の傷の話。 いつもは私以上にぼーっとしているツレではあるが、あの日本橋の上から眺めたときに、そのあたりの「黄金」が剥がれていたことに気づいたのも、そしてそのわけを見つけたのも彼女だった。珍しくもスゴイ。彼女は展示…

太陽の塔の眉間の傷

江戸東京博物館に入ってすぐに日本橋を渡る。いろんな意味で日本の基点になっている橋なわけだけど、その右下にややくすんだ黄金色の、太陽の塔の「未来の顔」が横たわっている。この顔は、常設展会場の一部を使って展示されているのだ。橋の上から見ると、…

あの顔と30年ぶりの再会

はい、とある原稿の校正戻しが一昨日の午前中、そして昨日の午前に最終チェックがあり、ほぼ放電し尽した状態であります。 その電力が有効に活用されたかどうかは定かではなく、また再び各方面の方々にご迷惑をお掛けしたこと、反省しきりではあります。 で…

ほぼ最後の運河

うーむ、昨日の火星の運河の話なのだけど、いろいろと考えさせられますなぁ。 一度でも天体望遠鏡で惑星を観たことがある人ならわかると思うけれど、地球上から観る惑星の表面というのは、大気の影響でプールの底からあたりの風景を眺めるように揺らめいてい…

心の中の運河

またまた学習科学図鑑の『宇宙旅行』について。 その表紙は前に書いたように、火星に近づく三隻の宇宙船が描かれている。その火星の表面には、いわゆる「運河」がくっかりと走っている。いわば古き良き時代ではある。 もちろん当時とて、それがなんらかの構…

8本ノズルのサターン5型

さて『宇宙旅行』のことの続き。 かなりマニアックな話になるけど、実はずっと前からサターン5型ロケットの一段目は、当初の計画では8本、または9本のブースターだったのが、変更されて5本のF1エンジンになったと思っていた。もちろんそれは間違いなの…

次のページをめくる人

最初に影響を受けたSF作品は、という質問を最近受けることがあったのだけれど、それには、いつも学習科学図鑑の「宇宙旅行」と「未来の世界」(ともに小学館)と答えている。まあ、正確にはSF作品じゃないけど、いいよね。 ということで、この二冊の本の…

なくなった本が出てくるまで。

ツイッターには書いたのだけれど、ここ数日、私の本棚でちょっとした騒ぎがあった。といっても、もちろん本が騒いでいるわけはなく、ただ私がうーむ、とか、むむむとと本棚を前にして騒いでいるだけなのだった。 というのも、少し前にとある関係の資料を買い…

幸せのうたた寝日和

暑くも寒くもなく、まさに散歩日和の今日この頃、ボーッとしていてはもったいないと、ツレといつもの近くの公園を歩く。 考えることはやはり皆同じで、公園は人で溢れている、と書いても、それは花見の時期の上野公園とは違うので、適度な溢れよう、ではある…

初めての文フリ05

文学フリマの続き。ツレは酉島さんや高山さんとは大阪の飲み会でいっしょだったし、渡邊さんとも贈賞式などで会っている。でも空木さんとは初対面。 で、私がさっき購入した「夜の図書館」を見せて、彼は第2回の佳作受賞者で、これも書いているんだよ、と説…

初めての文フリ04

そんなこんなで、酉島さんとなぜか東京創元社の石亀航さんの話(内容は忘れました)をしていると、「お呼びでっか」という感じて本人現る。まずはSFセミナーお疲れサマンサと挨拶。うーん、ここはSF短編賞エリアとなりつつある。 渡邊利道さんとは、アン…

初めての文フリ03

疲れたと童のごとくにほざくツレを休憩コーナーに放置して(あらら)、文学フリマ会場の二階をツラツラ見ていくと、知った名前の並んでいる書籍がある。タイトルは「genkai」。そうウルフが引退するときの言葉(みんな知らないと思う)じゃなくて、限界研の同人…

初めての文フリ02

文学フリマ会場の一階をグルリと回ると、ずらりと列ができている飲食コーナーをツレが発見。 「なんか飲みたい」 と、ほんとうに縁日に連れてきた子供のようなのをそのままにして、二階へ。なるほどね、エスカレーターホールには、頒布される書籍などが自由…

初めての文フリ01

初めて文学フリマに出掛けていって、オジサンは圧倒されて帰ってまいりました。まあ、おまけにオバサンも付いてきたのだけれど、彼女はよくわからず、ただタピオカを食したのみでした。 まずはその数、もちろん事前にホームページなどを見ていたので、おおよ…

深夜ももんじがキューと鳴く。

SFセミナーの夜の部、ひとコマ目は、「ジャパネスクSF探訪」に参加。 語り手は鳴庭真人さんで、いろんなジャンル(といってもSFだけど)の小説の内容と、その中で日本がどう描かれているかが紹介される。鳴庭さんのお話を聞いていると、翻訳本を読むのと…

人がいなけりゃ奇談モノ。

ということで、SFセミナーの昼の部は終了。少し時間があるので、近くの喫茶店ででも校正しようと思ったら、岡和田さんに拉致(冗談ですよ)されて、夜の部が開催される宿屋近くまでタクシーで向かう。 そしてその近くの店で校正作業を、と思ったら、適当な…

ウロコ散らばる。

SFセミナーに行ってまいりました。 最初は演題のほとんどが私の理解を超えるものばかりだったので、まあいいか、なんて構えていたのですが、評論賞チームの岡和田さんからお誘いがあり、合宿の部では創元SF短編賞の企画が2本あるとのこと。それでは参加…

桜台にての奇なる談03

考えてみると、祖母のアパートへと通じる三本の道は、すべて緩やかな下り坂だった。そしてそこを過ぎて、かつて大きなケヤキの木があったあたりから、また上り坂になっている。ブラ・タモリ的にいうと、ここは昔、小さな川か、もしくは湿地帯だったのだろう…

桜台にての奇なる談02

そしてまたしばらく歩くと、道の左側に三四軒の小さな店舗が並んでいて、住宅街にそこだけ色が付いている。その前を通り過ぎると大きな通りに出る。道幅は桜台通りよりも広いぐらいだ。あの肩を寄せ合った店舗といい、この意味不明に広い道路といい、どうも…