『ミツバチのささやき』をささやく01
タイトルバックは子どもたちの絵、映画に登場するアナとイザベルが描いたという。
しかしそれにしては上手過ぎる気がする。
そのイラスト、養蜂家、猫、汽車、興行師、そして自分たちであるふたりの女の子などが、映画の予告にように現れる。
それらは静かな音楽とマッチして、少しミステリアスな気持ちになる。
イラストの最後は、本編にある「映画上映シーン」。そのスクリーンがアップされて、映画が始まる。
荒野を進む一台のトラック。それは人の住まない海を行くがごとく。そして港に着くようにして、小さな村へと入っていく。
「1940年頃のカスティーリャのある村でのこと」
字幕にそう出て、村の入り口にはひとつの紋章がある。それはフランコ派の支配地域を意味するとか。しかし1940年頃のスペインについては知っていても、この紋章の意味を理解する日本人は少ないだろう。
トラックは村の中を走り、それを子どもたちが追いかける。彼らの声でそれが巡回映画のためのトラックであることがわかる。
トラックに群がる子どもたちをかき分けて、映画興行師は、この映画のすばらしさの口上。
島のような存在の村に入ってくる他者。別の世界をそこに展開する映画。この冒頭のシーンで、監督のエリセは映画のもつ魔術を観客に再認識させる。
そして一人のおばさんが、豆腐屋のラッパのようなものを鳴らして、『フランケンシュタイン』の上映を告げると、村の集会場に次々と自分の椅子を持って村人が集まってくる。興行師はまた入り口で、この映画の口上をしている。
どうやら客は子どもと年配の女性ばかり。しかし最後の方にベレー帽を被った何人かの若い男性が映る。彼らはフランコ派の若者ということなのだろうか。
映画が始まる。本編の前に「映画制作者」が画面に現れる。彼曰く、「これは衝撃的な作品です。世界にも稀です。しかしあまり本気にはせぬように・・・」
フィルムの回転する音が、ミツバチの羽音と交差して、養蜂家のシーンへと繋がっていく。