『第2会議室にて』34

oshikun2010-06-25

 2008年7月31日①
 午後6時を過ぎたが、第2会議室に執行部以外で集まったのは6人だけだった。モータータイムズ社労働組合の集会は、このところ極めて結集率が悪い。そもそも賃金の年俸制への以降を組合が了承してしまってからは、賃上げやボーナスの要求活動がほぼ消滅したので、結集軸自体が失われたのだ。年俸制は、結果としての賃下げ以上に、会社側が得た「利益」は大きかったことになる。
 また不思議なことに、このように結集率が低いといっても、集まる組合員は、その都度違っている。今回は経理部門と二輪雑誌の編集部がそのほとんどだった。ということはその部署にいる太田章と河北たまきの尽力があったことに他ならない。そういった才能は委員長の中西信也や副委員長の福田和彦にはないといっていいだろう。
 組合集会に定足数の規定はない。組合員に対して組合活動の報告をしたり、組合員の意見を聞く場として設定されているのだ。それが組合大会になると大変なことになる。委任状を含めてだが、それでも組合員の3分の2を集めなくてはならず、その場では要求の確認や運動方針が決定されることになる。
 20分ほどが世間話で過ぎた。経理部の小杉裕子が話の中心になっている。話題は当然のことに部下である太田章についてだ。
 「太田クンが土曜日に出社したって知ってます?」
 そういえば福田は土曜日に校正作業をしていた時に太田を見かけたことがあった。
 「ああ、そういえば誰もいない1階で、ウロウロしていたのを見たことがあるよ」
 「どうやら、平日と間違えて来ちゃったみたいなの。しっかりタイムカードが押されていたもの」
 「もういいかげんにしてくださいよ。これでその話題は何回目だと思っているんですか」
 しかし太田もなにやら楽しそうではある。
 「でね。太田クンの奥さんもね、土曜日だったって気がつかなかったっていうんだけど、どうかしらね・・・」
 「あの、ヨメの悪口は止しましょうよ」
 「いや、悪口じゃないわよ。ちゃんと起きて亭主を仕事に送り出す良妻じゃないの・・」
 そんな話を2輪編集部の連中は笑いながら聞いている。
 そして他の編集部員や事務部門の組合員が3、4人やってきたところで、中西が口を開いた。
 「ちょっと人数が少ないけど、まあいつものことですが。組合集会を始めてしまいたいと思います。まずはこちらの文章をお読みください」
 中西は印刷物をみんなに配った。手元にはまだその倍ほどが残されている。
 「先日、組合は組合員の意見をまとめて、それを質問状にして会社側に提出しました。その文面がひとつと、会社側からの回答が先週に返ってきましたのでそのコピーと、そしてこの回答に対するとりあえずの組合執行部の考え方を示した文章、以上の三点をお配りしました。まずはじっくりと読んでください」
 空気が少し硬くなった。たった十数人の組合集会が始まったのだ。