『第2会議室にて』42

oshikun2010-07-27

 2008年7月31日⑨
「はっきりいってしまおうか」
 福田和彦はまずそういった。そしてすぐに続けた。
 「今まで自分たちは腹を見せていた犬だったわけだ。だから会社は何でもできると思っている。可愛がることも、くすぐることも、そしてその腹を傷付けることもね。当然会社にとって美味しいのは、傷つけることだ。だからおっかなびっくり手を出して、年俸制を試してみた。でも噛み付いてはこない。翌年はちょっとだけ給料を上げてみた。そしたら、シッポを振ってついてくる。これで会社はわかったんだ。もう怖がらなくいい。こいつは決して噛みはしないってね」
 「だから、合併が可能だったわけだ」
 太田章が、さっき福田がいったことを繰り返した。
 「合併以外にもいろいろと細かいことをやっいるようだね。その問題があちこちで噴出している」
 事務方の中堅社員が発言した。
 「でも今までは従業員の過半数が加盟している組合を、完全に無視はできなかったはずだ。武装解除されて、牙も抜かれているとはいえ、やはりそれは労働組合だから、どう豹変するかわからないからね」
 中西信也がそういった。
 「だから、回答の中に会社は自分の真意を盛り込んだわけだね。それに組合はどう出るか。合併したらいろいろとやる。組合は交渉相手じゃない。雑誌の休刊などは経営判断でするんだと・・・」
 村上悟のいい方はわかりやすい。
 「そうは書いていないけれど、そういっているのと同じだね」
 若い広告部員も村上と同じ解釈のようだ。
 「これまでバカにされて、まだお腹を見せているわけにはいかないでしょ」
 河北たまきがそういって、みんなに同意を求めた。
 「その通りだと思う。このままではいけない」
 向井良行が河北の言葉を受け取った。
 「でもどうするかよね・・・」
 経理の女性がいった。
 すると福田はレジュメを手にとって、ヒラヒラと振った。
 「それはここに書いてある。団結権は組合を組織する権利であり、その勧誘行為を使用者が禁止したり、妨害したりすることはできない。そして組合に加盟しないことを前提にした雇用はできない。また組合は団体交渉権を持つ。これは組合が使用者と交渉を行う権利であり、これを使用者が拒めない。さらに団体行動権は、労働組合員の決議でストライキなどの行動を行う権利で、これに対して会社は民法上の損害請求ができない、ってことだ。これを誠実に実行すればいい。つまり、もう腹ばかり見せるのは止めて、少しは会社をあま噛みしてみるんだ。きっとほんとうに噛み付くと思って、飛び上がるはずだ」