『第2会議室にて』43

oshikun2010-07-30

 2008年7月31日⑩
 「で、さぁ、具体的にはどうするんですか。福田さんのいっていることって、何か同じことばかりで、よくわかんないんですけど・・・」
 とうとう太田章はシビレを切らしたらしい。
 「いまのはこの紙に書いていることをただ読んだだけでしょ。それってどんな意味があるんですか・・」
河北たまきもいよいよ我慢ができなくなったようだ。取材で汚れた髪が気になるようで、さっきからそれを触っている。
 「オレはちょっとわかるよ。いままで組合はただ存在するだけだった。それでもある程度は意味があった。でもそれは田中社長の時代だ。東山が社長になってから、彼らは少しずつ本性を明らかにしてきた。だから組合もただ存在しているだけではいけない・・・」
 そういったのは委員長の中西信也だった。
 「そう、ただじっとしているだけでなく、少し重い腰をドッコラショと上げることが必要なんだ。その指針とるのが、法律でしっかりと規定されている権利なんだ。そういったもの、前にいったようにそれを武器といってもいいけど、それで闘うっていうのがダメなら、行動すること、機を捉えて、なおかつ的確に・・・」
 中西の言葉に福田和彦がそう続けた。
 「つまり、存在しているだけよかった状況はもう終わって、これからは行動しなくてはいけないってことね」
 経理部の小杉裕子が、福田のいいたいことを簡単にまとめてくれた。
 「で、具体的にはどう動くのかって、さっきから聞いているんだけど・・・」
 太田は自分の発言を繰り返した。
 「それはみんなで考えればいい。例えば、矢継ぎ早に質問状を出す。どんなことでも団交を申し込む。掲示物を貼りだす。幹部連中の行動に注視して問題点を糾弾する・・・、太田ちゃんには何かいいアイデアはないかな」
 福田は彼に矛先を向けた。
 「その前に、キューダンって何ですか・・」
 太田は正直でいい。
 「問い詰める、とか問い正すことを、かなり強くやることかな」
 福田はそういうと、すぐに彼が反応した。
 「前に執行部会で少し話たんですけど、経理から見ると変な出金が一ダース以上あるんですよ。その辺も使えまますか」
 「キミがその気になればね」
 村上悟が太田の肩を叩いてそういった。
 「私も応援するわよ」
 小杉も太田にそういった。
 「・・つまり・・首も覚悟の上ですか・・・」
 太田は冗談っぽくそういった。
 「そうなったら、組合としてもしっかりと支援するよ」
 向井良行が少し笑いながらいう。
 「でも子ども二人と嫁さんを養ってはくれないんですよね」
 すごい情報があるのか、太田の声がやや震えている。
 「首になんてさせないから、大丈夫だ・・・・、と思う」
 福田はそういって考えた。彼の知っていることは使えるのかもしれない。