『第2会議室にて』44

oshikun2010-08-12

 2008年7月31日⑪
 「で、実際に太田チャンの持っている情報って、どんなものなんだい」
 村上悟は、ややうつむきかげんになってしまった太田章の顔を見ながら、楽しげにいった。
 「もしここで全部話してしまったら、僕は明日会社を首になります・・・」
 太田はうつむいたままでそう答えた。
 「それじゃ、別の場所で、いえる範囲だけでいい。それも委員長と、それから・・・」
 福田和彦が助け舟を出しかけると、委員長の中西信也がそれを続けた。
 「あとは福田さんとで改めて聞くことしょうか」
 「少し時間をもらえますか」
 うつむき加減の顔を少しもたげて太田がいった。
 「そうしょう。書面にする必要はない。口頭だけで十分だよ」
 福田はそういって、話を続ける。
 「太田ちゃんの極秘情報だけじゃなくて、他にもいろいろと突きどころがあると思う。とりあえずは噂の段階でもいいから、委員長が僕の方に教えて欲しい。それを元にして行動の作戦を練っていくことにしょう」
 「で、作戦に名前をつけましょうよ」
 河北たまきがそういうと、少しみんなの緊張が解けた。
 「アマガミ作戦なんてどうだい。さっき話にあったろう」
 向井良行がそう提案した。
 「しっかり噛み付くんじゃなくて、歯があることだけは確認させるってことだな」
 そして村上が自分の言葉を続けた。
 「でも、ひょっとしてほんとに噛んでしまったりして・・・」
 「まあ、それもいいし・・・」
 河北がポツリとそういうと、みんなが笑った。
 「そうだね。実際は噛み付いてしまったほうが、たぶんとってもおもしろいとは思う」
 そういったのは意外にも中西だった。
 「みんな、ちゃんと考えて行動しましょうね」
 太田はまたうつむいてしまった。
 結局、組合集会では、今回の回答を組合員に周知させること、そしてこの回答に再質問をすること、情報を集めて行動に出ること、そして会社の動きを大きな関心を持っていることを相手にわからせることが確認され、個々の具体案は執行部に一任された。集会が終わったのは午後9時を過ぎていた。第2会議室のドアを開けると、隣の広告部の社員はほとんど帰っている。ただカーライフ出版の部員が二人、ドアの近くで立ち話をしている。まるで組合集会の展開を窺ってでもいたかのように。会議室からみんなが出てくると、彼らはそれぞれ自分の席に戻っていった。