大戦下の牛歩戦術

 もう一本、小学生時代にテレビで観て、物語そのものを憶えているのが、長いあいだタイトルがわからなかった映画がある。
 これも「橋」同様に第二次大戦下のヨーロッパが舞台だが、作品のトーンはまったく異なっていてコメディ調。ドイツ軍の捕虜になっていた兵士が脱走を企てるのだが、「目立たない」ようにするため、なんと牛といっしょに逃げることになる。
 映画は彼と牛との逃避行をユーモラスに描いていくのだが、なにせ純朴な小学生だったから、最後の方で主人公と牛が別れるシーンがなんとも悲しく、小遣いをはたいてもその牛のその後の面倒をみてやりたいと思ったものだった。
 結末もまた寂しく、主人公が追手を逃れて故郷へ向かう列車に乗ったが、実際にそれはドイツ行きだったのだ。
 この映画のタイトルも、二十年以上前にたまたま川本三郎さんに原稿をお願いする機会があり、そのときに「牝牛と兵隊」と教えていただいた。
 この映画、残念ながらDVDの発売はなく、ネット上でその一部を観ることができる。
 今思い出したが、象といっしょに脱走を試みる映画もあったはず。あのタイトル、何だったっけ。
★フェンス越しのカワセミ。別に捕らわれているわけではありません。