季節の草花 その九

 さて、東京で桜の花の満開だったのはいつごろだっただろうか。公園を薄桃色に染め上げて、その木々の勝利を高らかに桜花、じゃなくて謳歌していたのも、今は昔、時のうつろいの無残さを現すように、そのすべては桃色の水面としてしばし揺れるだけ。
 そのあとにステージに立つのは、何本かの里桜。濃い桃色とその大振りの花はソメイヨシノとはまったく違った趣きで、清楚などどこ吹く風とばかりに風に揺れて、その個性を主張してのしばらくだけ、桜の余韻を引き延ばしてはくれる。しかしそれもまた過ぎて。
 桜は誰でもがいうようにすぐに散ってしまうからこそ、愛でる。後に残る緑のすきまに吹くさわやかな春の風に今日は今日とて、里桜のわずかに残った花弁が、なんのためらいもなく、舞落ちていったのでした。