中島飛行機の火器厳禁

先日、中島知久平に関するテレビ番組『英雄たちの選択』を観た。
 なにやらいやらしいタイトルで、もってまわった展開を含め、あまり好きな番組ではないのだけれど、テーマによっては観ることにしている。
 中島知久平とは、若い時分から飛行機の兵器としての可能性を信じ、その思いが上部に伝わらないことに業を煮やして海軍を辞め、自ら航空機製造を始めた、いわば軍需産業のパイオニア的存在。彼が作ったのが中島飛行機で、第二次大戦で使われた数多くの戦闘機を生産している。戦後はスバルのブランドで自動車生産を主とする富士重工となる。
 個人的関心は中島飛行機が敗戦の色合いの増す大戦末期、起死回生を図るべくモンスター重爆撃機である富嶽がテーマだということ。ヒコーキおたくではないので、そのあたりのことはよく知らないのだけれど、ドイツや日本では、大戦末期にこのような実用化が難しいトンデモ兵器の開発が数多くなされてきた。富嶽は太平洋をひとまたぎしてアメリカ本土を爆撃、そのまま大西洋を飛び越えて、ドイツ占領下のヨーロッパに着陸するというもの。しかしその壮大な構想ながらも、離陸するとタイヤの半分を投下して重量を減らすといった小技を駆使するなど、なかなかニクめない。
 そういえばドイツにも、ロケット爆撃機として成層圏を飛ぶのがあったはず。
 とまあ、話が長くなりそうなので、このあたりで止めといて、番組内容に戻ると、驚いたのは中島飛行機を説明するアニメーション。日々戦闘機の開発にいそしむ工場の壁には、なんと「火器厳禁」とデカデカと書いてあるではないか。もちろんこれは火気厳禁の誤りのはず。戦闘機を作っているのに、火器が厳禁とはなんともはやだけど、民間ではない天下の放送局がこれではちと悲しすぎる。万一、何らかの意図があって、説明がなければ制作者が恥をかく表現でしかない。
 そういえば漱石虞美人草を語る番組でもPM7:00などと時間を表していたけど、AM、PMは数字の後に来るはず。これもちと恥ずかしい。そんなこんなで某放送局、基礎学力が低下しているのではないか。
 でくだんの『英雄たちの選択』、若手の有名学者先生たちがいろいろと述べていたけれど、にわか勉強の自説開陳で論が薄べったいのだ。それに対して口下手だけど、YS11の開発者だった老人の弁は見事で、それがどこまで正しいかは別にして、自らの心情をそのまま吐露している矜持を前に、ほんとは何も知らない若手学者たちは沈黙のまま、まとめもほぼなく番組が終えたのが、唯一司会者の良心のようにも思えたのだった。