佐々木譲さんを読む 03

oshikun2009-11-10

『笑う警官』を頭の中で映画化する。 
 いよいよ14日から映画『笑う警官』がロードショー公開されます。
 この映画の原作小説である佐々木譲さんの『笑う警官』(「うたう警官」を改題)を2004年に読んだとき、物語の展開がまさに映画向きだと、いやそうではなく、読むことがそのまま映画を観ているような、そんな小説だと感じました。そして頭の中に投影されるその映像には、全編にジャズが流れているのです。それはジャズを演奏するシーンがあるからではなく、文章そのものがジャズを欲しているのです。
 私の中で流れたナンバーは、タイトルバックとエンドタイトルに、テーマ性のある旋律を持ったホレス・シルバーの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」。そこには登場人物が現れて映像が静止し、黒に白抜きでクレジットが現れます。劇中の動きのあるシーンには、軽快でノリのいいリー・モーガンの「サイド・ワインダー」。そしてチームの拠点ではオスカー・ピーターソンの『カナダ組曲』から、やさしくメロディアスな『ウィートランド』。これは小島百合のテーマ曲にしてもいいかもしれません。そして小説にはアート・ペッパーの名前がありましたが、流すとすればやはり『ミート・ザ・リズム・セクション』ということになります。
 と勝手に曲まで決めてしまいましたが、こういったことをしていて気づくのはこの小説と、初期の傑作である『新宿のありふれた夜』(「真夜中の遠い彼方」を改題)との類似性です。ともにタイムリミットに迫られた主人公を含むチームの面々が、とある拠点に参集し、ひとりの人間を助けるためにそれぞれの技能を駆使する物語ですが、そのスリリングな展開と結末へと収斂していくリズム感、そしてひとつの都市という閉鎖空間での出来事であることが共通しています。
 譲さんの小説をその長さの面で大別すると短編と、短めの長編(例えばこの2作)、そして『武揚伝』や『天下城』、『疾駆する夢』といった長めの長編の3つに分けられると思いますが、この「短めの長編」の中で私がお薦めするとすれば、スピード感と緻密さとスリリングな点で断然この2作となります。『新宿のありふれた夜』が若松孝二監督の『われに撃つ用意あり』という作品で映画化された点も似ているといえるでしょう。
 などと書いていたら、『うたう警官』(私の手元にあるのはこちらの題名)を再読したくなってきました。しかし、そうすると映画の鑑賞の妨げになるかもしれない。うーむ、「読んでから見るか、見てから読むか」あれっ、なんか遠い過去の記憶が・・・・ね、角川さん。