『第2会議室にて』04
2008年12月5日④
6人の組合執行部員たちは、打ち合わせスペースの丸テーブルをふたつ合わせて、そこに座った。それぞれが来るものが来たと思っていた。しかしその直前までほんとうに来るのかどうか、もしかすると来ないのではないかという、一縷の望みさえ持っていた。
執行部員の中で、契約社員なのは書記次長の向井良行と渉外の河北たまきの2人だった。契約社員といっても、モータータイムズ社の場合、契約更新は毎年自動的に行なわれていて、総務部がそれを忘れて4月に入ってから、慌てて契約書を交わすことさえもあったのだ。正社員との違いは退職金がないことだけ、誰もがそう思ってきた。
経理部にいる太田章が口を開いた。
「こんな時に何なんだけれど、いまわかっちゃいましたよ。取締役って、いち・に・さん、ですね」
「なんだい、そりゃ」
委員長の中西が受けた。
「だって、徹三に、信二、それに一良だから」
「さすが経理部だな、数字に詳しい。他にわかっちゃったことはないのかい」
村上が自分のメモを見ながらいう。彼は書記長だから、さっきの会合を記録しているはずだ。
「あっ、そういうことならありますよ。大阪広告営業部のことですけど、そことの合併はまさに仕組まれたものですね。大阪はそこそこのお金を持っていたんですよ。でもそれには手を付けられない。そこでセクション自体を無くしてしまおう、そう考えたんだと思います」
太田の話を受けて、中西がいう。
「今度の合併で、カーライフ出版のある営業幹部が手を挙げたようだよ。『大阪は任せろ』って」
「だから大阪の会社を合併するときに、もともとその会社の正社員をモータータイムズ社の契約社員にして、そして一年後に首を切る。正社員では無理だけど、契約社員ならそれができると・・」。
書記次長の向井のこの言葉にみんなが頷いた。
「彼らにこのことが伝わっているのかどうか、そのあたりを調べるのと、その『就業規則』とやらの精査をしなくてはならないな」
中西に太田が付け加える。
「それから、マスコミ協同労働組合連合だっけ、そこにアドバイスを受けましょうよ」
「了解、それじゃマスコミ協労さんとのコンタクトは太田クンに頼む。私と福田サンでこれをじっくりと読む」
中西が「就業規則」を持ち上げていう。
「たぶんうんざりするほどの問題点が出てくるぞ」
そう福田がいった。
「それから大阪との連絡、これは・・・」
「私がやりますよ」
中西の言葉に河北が手を挙げた。
「けっこう、大阪の人と仲がいいんですよ」
「それから・・・」
中西がみんなを見渡した。すると福田がひざのあたりで手を挙げた。
「さっきの会議でのことなんだけど、委員長の発言はちょっと慎重にした方がいいと思う」
「というと・・」
中西は不思議そうな顔をした。
「まだ何も決まってはいないんだ。契約社員のことも、大阪広告営業部のことも、そして就業規則のことも。会社側がそうしたいということだけだから、そのことをうかつに質問すると向こうの土俵に乗ることになる。つまりそれが前提になってしまう。でも自分たちがしっかりしていれば、実はなんとでもなる。でもそうでない場合は、向こうの思いの通りにことが進んでいくだろう。向こうはそれで飯を食っていると思っているからね。そのためにも今の状況を、ちょっと現状分析をした方がいい」
「確かにその通りだ。これまでのことを共通の認識して持っておいたほうがいい」
またみんなが頷いた。
ちょっと俺がまとめてみよう。 福田が話し始めた。