十年前の住まい探し24

oshikun2010-03-19

 コンセプトの発見 
 マンション「浮間舟渡B」のモデルルームで、ほんとうにフリの客であることを「事前公開」すると、「いえいえ、まったくかまいませんよ。ようこそいらっしゃいました。ぜひご覧になってください」と中江有里似の営業ウーマンがいう。
 モデルルーム巡りをしてきての実感的感想は、営業担当者は若いほどちゃんとしているということだった。年配の人で、どちらかといえばいい印象だったのは、マンション「鷺宮C」の「老教授」くらいのもので、それもどちらかといえば、なのだ。「鷺宮A」の河村隆一似や「鷺宮B」の八嶋智人似、そしてここマンション「浮間舟渡B」の中江有里似。この3人がベストスリーといえるだろう。押しが強くなく、こちらの話しを良く聞く、価値判断基準はこの2点である。
 さて、このマンション探しを通じて私はいい客とはいえなかったかもしれない、たぶん変な客ではあったはずだが、それほどいやな客ではなかったとは思いたい。こういった客に対して、営業担当はこの2点をクリアさえしていれば、客は気持ちよくその物件を検討できるのである。しかしかの「鷺宮B」の前時代的な営業部長氏をはじめ、話し相手としての検討以前の人も何人かいた。そんなことの原因を勝手に想像すれば、造れば売れる時代を中心に仕事をしてきた人たちが、その時の感覚を払拭できないでいたということになる。
 そして事務室に行っていた中江有里似が戻ってくる。
「こちらがパンフレットです。モデルルームはご見学になりますか」
 別にこの後に予定が入っているわけでもないので、「予定変更」である。
 「浮間舟渡B」は30階建てのタワーマンションだ。今となってはどうしてタワーマンションが検討物件の中に入っていなかったのは定かではないが、価格が高額であるという先入観がそうさせていたのかもしれない。パンフレットを見ると床面積は60?から80?程度の物件が多い。タワー部分の断面はいびつな五角形をしている。正方形に近い四角形の角を大胆に切ったカタチとでもいえるだろうか。敷地のほとんどを使って3階建ての事務棟・店舗棟が建てられ、敷地面積の五分の一程度を使った4階から30階部分に、各フロアに5戸か6戸の住居が入っている構造になっている。
 フロアはふたつのエレベーターのドアから一本の廊下が伸びていて、各戸の扉に通じている。廊下が回廊型で中心部分が中空の、タワーマンションにはよくあるタイプではない。
 「そうですね。せっかく来たんですから、見ていくことにしましょうか」と彼女に誘われるままに、奥の階段を昇った。2階はまず広い空きフロアがあって、その先に2戸分のモデルルームが設えてあった。それらを見て最初に気づいたのが、玄関のそばに窓がない、つまり入ってすぐに部屋がないということである。これはちょっと驚きだった、いや私の見方を変えるちょっとした事件だったといってもいいかもしれない。
 一般的なマンションは、部屋が田の字、つまり廊下は中央にあり、玄関を入って左右に部屋がある。その奥はベランダに面したリビング&ダイニングと、そこに繋がったキッチンと和室になっている。通称、これに類した間取りの物件を田の字型住居という。そしてこのような間取りの住居が上下左右にほぼ一様に並んでいるのをようかん(和菓子のあれです。長い棒状を人数分に適当に切るのがまさに効率的)型のマンションという。
 この典型的な間取りは、効率が優先されていて、南側にリビングを持ってくると、当然玄関は北側になる。つまり玄関に近い部屋の窓は通路側となる。事実、全室南向きなどと称されるマンションは、ほとんどがこの田の字型・ようかん構造物件であり、モデルルームもその形のものが多い。
 しかし私は通路側の部屋がどうも苦手だった。実際にそういったマンションに暮らしている友人の家に行くと通路側の部屋は日当たりが悪く、またプライバシーの関係から必然的に曇りガラスで、いつそこに人の影が通るかわからないのだ。もちろんようかん型のマンションでも、各階の角部屋は外廊下を閉じてその物件の専有したり、また側面にも窓が付くので、そういう弊害は払拭できる。だから私がようかん型のマンションを検討するにしても、そういった工夫がなされた角部屋の物件ということになる。
 例えば、マンション「鷺宮B」の風呂に窓がある物件や「浮間舟渡A」の景観を気にした物件などがそれだ。しかしマンション「浮間舟渡B」はそういったコンセプトとはまったく無縁だったのだ。