十年前の住まい探し31

oshikun2010-04-23

 うーむ、見つからない
 さて、「買うとしたらどれがいいかな」と、マンション「浮間舟渡B」の価格表と間取り図を両手に持って、面白半分(つまり真剣半分)に検討していくと、前に書いたいくつかの条件から、結果的に2つのタイプが残されることとなった。
 以前にも書いたことだけど、この方式でいろいろと取捨選択をしても、マンション「東中野A」のときは、あいまいな最終候補にいくつもの物件が残ってしまった。このときは、本格的な住まい探しを始めた直後だったことや全体に価格が高めだったこと、さらに建物の立地自体にやや問題があっことなどで、どうにかその大いなる魅力の「呪縛」から逃れることができたのだ。
 しかし「浮間舟渡B」の場合、こんなにもすんなりと最終選考結果が出てしまうと、こちらも意外ともいえるその展開に、ややドギマギとしてしまうのだ。さらに残ったのは2つのタイプと書いたけれども、間取り的にはほとんど同じで、何か都合で床面積が2.5㎡違うだけなのだ。つまり残されたのはほぼ1タイプといってもよかった。
 で、買わない理由を探してみた。うーむ。 ・・・・・・・・見つからない。
 「ここで跳ぶ」べきか、否か。
 さらに何度もモデルルームに足を運び。担当の中江有里似と挨拶をして、冗談をかまし。どこかに問題点はないかと、いろいろと探し回った。しかし決定的なモノは見つからない。
 そして彼女に、ついに「告白」してしまったのだ。
「申し込もうと、思うんですけど・・・」
 このマンションの販売方法は、一定の期間中、物件ごとに応募を受け付けて、応募者が複数の場合は抽選が行なわれ、その期間に応募がない場合は先着順となる。しかし彼女の話を信じるならば、人気物件ゆえにほとんどの物件に応募があり、先着順にはならないようだ。
 その証拠といえるかどうかはわからないが、私が最初にこのモデルルームに行ったときには、すでに第1期の先着順物件はなかった。
 そうか、彼女の余裕のある佇まいも、この人気のなせるわざなのかもしれない。がっちりと営業しなくても、お客さんは来てくれる。彼女に課せられた任務は、客に気持ちのいい応対をすることだったのだ。そのことが購入検討から10年目にして、やってわかった。
 また応募者がもし重なってしまった場合、営業マンはその事実を伝えて、同様のタイプの別の階の物件に誘導しているようだ。私が購入しようと「打ち明けた」ときにも、彼女はすでに応募済の物件を教えてくれた。それに従って、私はその時点でまだ応募のない物件を選ぶことになる。
 このようにして彼女たちは、第2期の34戸に満遍なく応募者が埋まるように誘導していくのだ。それでも当然いくつかの物件には、複数の応募が集まることになる。それはまあそれで仕方が無い。
 抽選はもちろん公開で行なわれる。その日、私はそのイベントには参加しなかった。応募者が別にいるかどうかさえ聞かなかったが、たぶんいたと思う。そしてその日の夕刻に電話があった。
 「おめでとうございます。御当選なさいました」
 その瞬間は、はたして「おめでとう」なのかどうなのかわからなかった。いや今でも確信をもってそうだ、とはいえない。ただそのとき、預金残高の数字がフッと消えるイメージが頭の中に沸いてきた。さて、その数字の列とそのマンションは代替の必然性があったのかどうか。



[お知らせ]
 先日、とある公募で私の「文章」が最終選考に残ったとのご連絡がありました。これは私の書いたモノが、一応「物語」であるとご判断いただいたものと考えたいと思います。もしそうであれば、まさに身に余る光栄です。