十年前の住まい探し32

oshikun2010-04-28

 グッバイ、タイガー
 まず私の貯金通帳から消えていったのは、マンション「浮間舟渡B」の販売価格の、ほぼ10%の金額である。たしか保証金という名前がついていた。その10%にしても、私がこの人生において支払った金額で最大のモノだった。クルマだってもっと安かったし。
 しかしそれにしても賃貸マンションの家賃(管理費・駐車場代を含む)の1年半分ぐらいなのだから、ええっと、それってデカイのかチイサイのか、微妙なところ。具体的な金額がないと想像しにくいので、ややあいまいにしつつ書いてみると、マンション価格は約3500万円だった。だから「御当選、おめでとうございます」の数日後に振り込んだ金額は、350万円程度なのだ。その頃に住んでいた賃貸の家賃(管理費・駐車場代を含む)が20万円弱(これはやっぱり高いよね)だったので、そんな計算となる。
 賃貸マンションは新宿区内にあり、新宿までは西武新宿線なら10分程度、あまり使わないけど大江戸線でもそのくらいで行ける場所にあり、なにより便利だったのは、勤め先まで歩いて15分ほどだったことだ。それに比較すると、今度の浮間舟渡のマンションは新宿まで18分、池袋まで12分だが、埼京線の本数が少ないのが難点。ちなみに職場までは、徒歩の時間を含めて35分ぐらいか。まあ、まったく利便性には問題はない。
 そうして、10%の大枚を払い込んでから、何回か浮間舟渡の足を運んでは、にょきにょきと天へと伸びるタワー型マンションの成長ぶりを眺めることになる。販売会社のサイトにもやや遅れ気味ではあったけれど、その「伸び具合」の写真がアップされていた。
 しかしそんなある日、世界に冠たるタワーが突然二棟もほぼ同時に崩落するのだった。いわずと知れた9.11のWTCである。航空機の衝突というまさに未曾有の出来事だが、近代文明の象徴ともいえる建造物の脆さをこれだけリピートされると、そのミニチュア版たる我が「浮間舟渡B」の脆弱性に思いが至ることとなる。奇しくもこの頃から地震のメカニズムに新たな光が投じられて、長周期振動に対する巨大構築物の弱さが喧伝されていた。
 で、ええっ、もっと早くいってくれればいいのに、と思わないこともなかったけれど、いつもの「まっ、いいじゃん、別に」の楽天的心情のほうが勝利して、2002年の8月末、いよいよ引渡しの日を迎えた。
 幸いなことに、ローンを組むことがなかったので、その手続きとか、残念なことにローン減税の対象とはならないので、その手続きとかは必要なし。よって、やることは極めてシンプルだった。私は自分のいろんな銀行口座からその虎の子残金のほとんどを、販売価格から保証金を引いた金額と払い込んだ合計金額が同じになるまで、販売会社の口座に、何回も振り込みを繰り返すのだ。うううっ、ツライ作業ではあった。まるで人生のらっきょの皮を、一枚一枚剥がしていくようで、って何という「たとえ」なんだ。