『ミツバチのささやき』をささやく02

oshikun2010-07-09

 集会所で上映している映画「フランケンシュタイン」の冒頭、映画の中の司会者のセリフ、「・・・これほど衝撃的な作品は、世界にも稀です。でも、あまり本気になさらないように・・・」は、その映画の口上であると同時に『ミツバチのささやき』のそれでもあるのだろう。
 そしてアナたちの父親フェルナンドの登場。彼は養蜂箱の手入れをしている。映画「ミツバチのささやき」の原題は「蜜蜂箱の精霊」だ。三人の影の「主人公」はフランケンシュタイン、フェルナンド、そしてフランコか。三人ともFで始まる。
 蜜蜂のシーンの女性の声が被さる。手紙を書いている女性テレサ、彼女が顔を上げると向こうに、蜜蜂の巣の模様である六角形の格子が入った窓が見える。彼女もまた巣箱の中にいるのか。机の上のグラスには少女の絵が描かれているが、それは映画「フランケンシュタイン」の少女とよく似たポーズを取っている。彼女の声は手紙の文面だということがわかる。会えなくなった人への手紙、・・・・多くが失われ、悲しみが残り、外からの知らせはわずか、あなたが無事でいることを・・・・。テレサは自転車で出かける。駅、向こうから汽車が到着する。汽車のポストに手紙を投函する。テレサは乗車している兵士と視線を交える。さらに客車の中のさまざまな人を凝視する。それが彼女の外部への強い関心。それは子どもたちの映画への眼差しにも似ている。やがて汽車は出発する。
 また養蜂箱のフェルナンドのシーン。懐中時計を取り出して時間を確認する彼。なぜかテレサが居た駅の時計とは時刻がまったく違っている。彼は別の時間軸の中に生きているのか。蓋を閉じる養蜂箱にはSANAの文字。しかしSは薄く、ANAにも見える。アナ、それは主人公の少女の名前。30から40個の養蜂箱の意味はさて。
 フェルナンド、映画上映中の集会所の前で立ち止まる。中からは音やセリフが聞こえてくる。彼は立ち去る。そして自分の屋敷に鐘の音とともに戻る。その屋敷の大きさは彼がプロの養蜂家ではないことを示す。ニ階に上がり、テレサと声をかける。彼女の姿は見当たらない。二階の廊下の窓には蜜蜂の巣の格子がない。庭にいるメイドのミラグロス(同じ名前のメイドが『エル・スール』にも登場する)に聞くと、出掛けているという、子どもたちも映画に行っている。フェルナンドは食事の時間に居てもらわないと困る、彼女に叱られる。
 フェルナンドは書斎に入る。壁に大きな絵画。後で出てくるフェルナンドといっしょに写真に写っていた思想家に似ている。しかしたぶん昔の哲学者か何かなのだろう。書斎にも蜜蜂の巣箱があって、それを覗き込む。
 彼は届いていた雑誌を開く。「MUNDO」と読める。表紙は背を向けて銃を構える兵士(ドイツ兵風)と、相対して手を上げる一般人、か。この書斎にも映画のセリフが聞こえる。彼はバルコニーに出てそれを聞く。やはりこの窓にも蜜蜂の巣の格子がある。・・・・先生、もう少しの辛抱です。完成には時間が掛かります。・・・・こんな不完全な怪物は壊そう・・・・未知に挑まず何の研究です・・・あの脳は完璧です・・・・いやあれは犯罪者の脳だ・・・・。
 そして場面は映画が上映されている集会場へと変わる。