『ミツバチのささやき』をささやく03

oshikun2010-07-22

 前回、手紙を書いていたテレサの部屋とフェルナンドの書斎の窓は、蜂の巣状の格子が入っていると記したが、そのガラスはともにオレンジ色に彩色されている。そしてそれはミツバチの巣箱の中の色でもあり、その色が部屋の中に満ちていた。
 映画を上映している集会所のシーン。映画の中で猫といっしょにいた少女が、池の近くで「怪物」と出会い、二人は花を池に投げ入れて遊ぶ。(猫は本編にも後で登場する。そしてタイトルバックにもすでに出ている)。映画の少女は「怪物」を怪物とは思わない。しかしアナたちは怪物であることを知っている。彼女たちは真剣に映画を観てる。特にアナのそれは演技ではない。
 手紙を汽車に託したテレサが、フェルナンドと同じように集会所の前を通って屋敷に戻る。門柱には右にCLMG、左に三本の立ての棒が書かれてある。フェランヘ党が書いた何かの符号なのだろうか。
 映画を観ているアナは、姉のイザベルに「怪物」はどうして少女を殺したかを問う。イザベルは後で教えるという。映画が終わり、彼女たちはフランケンシュタインなどと叫びながら屋敷に走り帰る。
 夕暮れの屋敷の外観がそのまま夜となり、子どもたちの就眠の祈りをする。そして真っ暗の中で、アナは蝋燭に火を点し、イザベルに映画の話を聞こうとする。イザベルによると、怪物は村はずれに住んでいる精霊。目を閉じて「私はアナです」といえば話ができるという。そこに足音がする。
 二階の書斎を歩く父フェルナンド。口笛を吹いて、コーヒーが沸くのを待っている。
 そしてヘッドホンを付けて小型のラジオを聞く。音は聞こえてこない。共和国軍側の放送だと想像できる。彼はノートを取る。ガラス箱に入れられたミツバチの観測ノート。その一節、「幼虫を待つのは労働のみ。唯一の休息たる死も、この巣から遠く離れねば得られない」との彼の語りで、アナとイザベルの寝顔が映る。フェルナンドが彼女たちの様子を見に来る。最後の一節、「その目には哀しみと恐怖があった」あたりを彼はペンでぎこちなく消す。
 フェルナンドの書斎の窓の外観。朝になるがランプは点いたまま。ガラスの巣箱。網状の通り道を伝わって外へ出て行くミツバチ。机に突っ伏して寝ているフェルナンド。机の上には二匹の紙で作った鳥。これはアナとイザベルの意味か。
 ベッドにいるテレサは目を覚ましている。しかし夫の足音を聞いて、寝返りを打って、寝たふりをする。この寝室もオレンジ色に満たされている。影の動きでフォルナンドが着替えているのがわかる。汽車の音。テレサが目を開けて、また閉じる。彼女の汽車への執着。それはここではない外界への憧れか。