出戻りSFファンの驚き

oshikun2010-08-15

『量子回廊 −年刊日本SF傑作選−』大森望日下三蔵 (東京創元社)
2009年の傑作SFを集めた一冊だという。で、ひさしぶりにSFなるものを読んでみて、これが驚いた。自分のSF感とはかなり違った作品が、ずらりと並んでいるのだ。しかししばらくすると、なるほどこれが昨今の日本SFなのかと、妙に納得したりもする。
 もちろん収録された19編が、同じ方向を向いているというわけではない。逆に四方八方に飛び交っていて、意味や筋をつかむのにかなり苦労するのである。またサイエンス・フィクションなのだから科学的な展開を期待するというのは、無駄な抵抗のようだ。クラークや小松左京をそれこそ数十年前に愛読し、スター・ウォーズの宇宙船の飛び方が、力学を無視しているといっている私にとってのSFとは、やはり百億光年ほど離れているのである。しかし、そこに魅力がないかといえばそうではない。オジサンは少しだけ頭をクラクラとさせながらも、この19編を次々と読んでいき、それぞれに程度の差こそあれ、十分に魅了されていったのだった。
 特に第1回創元SF短編賞を受賞した松崎有理さんの「あがり」は、最初とっつきにくかったけれど、ある程度展開が読めたあたりから、ぐいぐいと引っ張られてしまった。専門用語が理解できれば、きっともっとおもしろかったに違いない。
 ところで、余談だけれど、この作品の中に「破顔した」という表現がある。これは直木賞の選考で、五木寛之さんが佐々木譲さんの作品の古風すぎる点として挙げたものだ。しかし実際にそれは存在せず、責任を重く感じた五木さんは選考委員を辞退している。SF短編賞の締め切りと直木賞の発表が微妙に近いのだけれど、出版までには推敲の時間があるので、なんらかの意味合いを込めて、これを挿入した可能性がないわけではない、と思う。
 ただし、松本さんの作品はそれこそわざと「古風」な仕上がりにしているようだから、書いていく中で、すんなりとこの表現になったという可能性の方が高いだろう。
 ところで、この本には私の名前が、ちょっと悲しい感じで掲載されている。興味をもたれた方は書店で探してみてください。