極上のホスピタリティ

(昨日の続き)
 手術室でマスク美人の看護師さんはテキパキと動き、私に何か関係があるときは(って全部関係があるわけだけど)、いちいち私に断ってから、ことをなしている。
 「ちょっと足を上げますね」
 「足にシールみたいなものを貼ります」
 「はい、指を伸ばしてください」
 「血圧を録りますから、腕を持ち上げてください」
 「どうですか、寒くないですか。温度は調整できますよ」
 「枕の高さはどうですか」
 「足元は寒くないですか。毛布はいりますか」
 これぞまさにホスピタリティである。
 そうこうしている間に先生がたは、真ん中に穴の開いている紙(?)を取り出してきて、左腕の患部だけが見えるようにした。
 そして、
 「これ、これだよね・・・」などといっている。
 でまた、そうこうしているうちに、たぶん何の予告もなく、ブチューと注射されてしまった。これがホントにブチューという感じで薬剤が中に入ってくるのがわかる。
 かなり痛い。
 それも何度かに渡って注入される。筋肉注射というヤツなのだろう。部分麻酔というよりは、局部麻酔、ホンの一部だけに麻酔が掛かっているようだ。
 もともと自分から見えない場所だったし、穴あきの紙で覆われているので、先生がたが何をやっているのかは、まったくわからない。麻酔が効いているので、どこをどうされているのかもわからない。
 ただ先生の話で想像するだけだ。
 「ああ、そこそこ、いゃ違うって、そうじゃなくて・・・」
 ええっ、どうなっているのかなぁ。
 「そうそう、これだね。これこれ、そこんところもそう下から右へ・・・」
 て、何やっているんだろ。
 先生は助手の先生を叱りつつ、おだてつつ、20分も掛からないで手術は終了、しかもその半分近くは傷口を縫う時間だったと思う。
 縫い始めてから、とたんに先生の雰囲気を穏やかになった。
 いや、違うか。穏やかになったから、きっといま縫っていると思ったのだった。
 「でも、△△さんという名前って珍しいよね」
 「そうですね。電話帳にも数件しかありませんよ。でも○○先生の名前もあまりないですよね」
 「そうそう、まだひとりも会ったことないもんな」
 なんていう会話を交わしながら、私の左腕が黒い糸で括られていくのではあった。
(この項目、ごめんなさい続きます)