京浜東北の小鳥たち

家に帰るために京浜東北線に乗って座っていると、目の前に若い女の子の二人組みが立った。よくわからないけれど、大学の4年生(短大の2年生かも)らしく、まさに小鳥がさえずるように、おしゃべりをしている。でも話題が続かない。
 で、話がブチッと途切れるのだが、どうやらその隙間が、彼女たちにはとても不安なものらしく、また何の脈絡もない話題がポコッと始まるのだ。
 そこで、おじさんは聞きたくなくても、聞こえてくるので、しょうがなくも拝聴することにした。でもちょっとだけ楽しかった。
 「どこか最近いった、面白いとこある」
 「立川とかにいった」
 「えっ、それってどこ」
 「中央線とかで、ずーっと行くの」
 「何かいいところあるの」
 「ううん、特にね」
 「あっ、春日部っていったことある」
 「えっ、ないよ。どうなのそこ」
 「あの、私もわかんない」
 「ところでさ、自由が丘ってどこ。山手線の中」
 「違うよ。渋谷とかからいくの」
 「慶応とかあるっけ」
 「いや、ないと思うけど」
 「でさ、旅行とかどこいった」
 「山口にいったけど、何にもないし」
 「鳥取って、砂丘だけだよ。あと鬼太郎とか、ケケゲの」
 「どう四国は」
 「あっ、私、讃岐そば食べたい」
 「高知は、なにかあるの」
 「ええと、龍馬しか思い浮かばない」
 「長崎もいいよね」
 「鹿児島、桜島あるし」
 「沖縄どうよ」
 「沖縄、高いし」
 「そうだ、広島行ったよ。宮島つまんなかった」
 「そんなことないよ。宮島、楽しかったよ」
 「そうなんだ。楽しかったんだ。どんなとこ」
 「もみじまんじゅう、おいしいの、作りたてだったの。でもウチでオーブントースターで温めたら、作りたての味で、やっぱりおいしかった」
 「へえー、食べたーい。トースターで焼くのね。レンジじゃなくて」
 「でさ、こんどトルコいくの」
 「ヘェ、トルコ行くんだ」
 「ところで、シンポールってどう」
 「シンガポールに行くの」
 「そうじゃないけど」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 まるで、私は5cmの長さに切られた蕎麦を食べているようだった。もみじまんじゅうだけ、文字数がやや多かったけれど。