のぼうの読書

 あの『のぼうの城』(和田竜・小学館文庫)をサクッと読みました。まさにサクッと読める一冊、というか二冊です。以前書いたように、この物語は戦国時代の忍(おし)城が舞台なので、私は当然ながら、その「忍」に惹かれて読み始めました。
 いやいや、すんなりとストーリーに入っていけるこの容易さは、いったい何ナノだろう。歴史小説や時代小説というモノをほとんど読まない私も、まったくつまずくことなく、どんどんと次のページを繰ることができるのです。
 しかしその平易さによるものなのか、どうしても深みやシブさという奥行きを感じることはありません。ときどき歴史的資料が紐解かれ、物語の事実関係が確認されますが、それも重石にはなっていないのです。
 戦闘シーンにも重厚さはなく、早い話、斬られても痛くないのです。
 言葉遣いも見事にわかりやすい、そう、わかりやす過ぎます。まるで大河ドラマというよりも、これはNHKで土曜の夜にやっている、30分枠の時代劇のようといっていいでしょう。
 だから私としてはそれなりに楽しんだにも関わらず、残念ながらこれを人に薦めることはできません。帯では、読書家といわれている太田光さんが「マイ・ベスト本!」と持ち上げていますが、逆に読書家のありようを明らかにしているように思ってしまいます。
 ただ主人公のキャラが最後まで謎だという点はおもしろいかな。でもその隠し方にもあまり芸がないように感じるし。
 はい、私はさような具合で、ベストセラーを楽しめない人なのかもしれませんね。
 そうそう、登場人物はリアルな顔を想像できなかったのですが、大河ドラマ天地人』のせいで、石田三成だけは小栗旬さんの顔になってしまいました。