最上の一読者逝く

 児玉清さんが亡くなった。とても残念だ。
 私にとっての児玉さんといえば、まずNHKの「週刊ブックレビュー」の司会役である。特に中江有里さんがアシスタントだった時代が好きだ。彼女の温かみのある声で紹介された本に、児玉さんの優しいまなざしが注ぎ込まれる。それだけでたぶん本は幸せだろう。
 私の独断だけれど、児玉さんはこの番組のほかの司会者とはまったく別のステージにいたような気がする。それは氏自身が基本的に実作者ではなく、極めてまっとうな一読者としていたからだと思う。
 実はツレも児玉さんの大ファンだったが、この番組は深夜の放送が多いのでよく見逃していた。つい先日も放送時間を聞かれて、ネットで確認したばかりだった。突然の死に彼女の驚きと落胆は大きい。
 もうひとつ児玉さんの記憶として残っているのは、ここ数年のテレビドラマへの出演。「HERO」や「コードブルー」では出演時間こそ短いものの、氏の存在が基準石となって全体を引き締めていた。それに昨年の大河ドラマ龍馬伝」での坂本龍馬の父親役は絶品だった。武士として存在が先に立つ父親としてではなく、龍馬の夢に軽く肩を押してくれる父親を、とても丁寧に演じていたと思う。
 NHKさん、ぜひ「龍馬伝」での児玉さんの特集番組とか「週刊ブックレビュー」での追悼番組を組んでくれまいか。
 そうそうNHKには「世界びっくり旅行社」もあった。児玉さんとタカアンドトシのかけ合いがまた絶妙。教養番組でも、バラエティでも、さらにドラマでさえも、まったく「上から目線」というものが存在しない人だったと思う。