楽園からのあゆみ

 朝日新聞に掲載されたユージン・スミスの写真『楽園へのあゆみ』をツレがたいそう気に入ってしまい、記事の告知にあった先日東京都写真美術館へ「こどもの情景」を観にのこのこ出掛けました。
 しかし、この『楽園へのあゆみ』という写真はあまりにも有名で、当のユージン・スミスもそのことをもてあましていたのではないかと思ったりもする。ちなみにこの写真は戦争で負った傷がまだ癒えていない1946年に彼の子供たちを撮ったものだ。

 実際のところ、我が家にも数多くの『楽園へのあゆみ』が存在する。
 まずひとつはそのまま本のタイトルになっている『ユージン・スミス 楽園へのあゆみ』(土方正志・文 長倉洋海・解説)というこども向けの本。彼の人生がワイルドだった部分はほぼ省略されつつも丁寧に描かれている。余談だが、この本には彼が水俣病の取材で訪れたチッソで、患者の川本輝夫さんとともに警備員から暴行を受けた記事が載っているが、その同じ誌面に、いま話題の『マイ・バック・ページ』の川本三郎さん(誌面では匿名)が逮捕されたとも報じられている。
 それから偶然というか、たまたま自分の生まれた年の1956年度版の『U.S.CAMERA』を持っているのだが、そこの中では前年の「ファミリー・オブ・マン」の展示の最後を飾った『楽園へのあゆみ』が、「きみたちがあゆむその足もとから新しい世界がはじまる」という展示の際と同じ文を添えて掲載されている。
 さらに忘れていたのだが、彼の写真展の図録(というのだろうか)もあった。これを開くと、彼の代表作は決して『楽園へのあゆみ』ではないことがわかる。
 そしてたぶん、タイムライフ集英社の写真全集にも掲載されているだろうけれども、探すのが力仕事なので、やめておく。
 ところで今日の書き込みためにLibroの『世界芸術写真史』を開いたのだが、この本の彼のページにはスペイン市民戦争やサイパン硫黄島の写真が掲載されていて、『楽園へのあゆみ』はなかった。ある意味見識だと思う。
 この本を見て、なるほどと思ったのは、彼のページの前がロバート・キャパで、後がジュセフ・クーデルカだということ。クーデルカはあのプラパの1968年を撮った人だ。くしくもいま彼の写真展も東京都写真美術館で開催されていて、今度の火曜日に行くつもりだった。
 あっ、それからもう一枚、ツレが大事に取ってある朝日新聞の記事の写真があった。ちょっと黒がつぶれ過ぎていると思うのだけれど。