天体望遠鏡への遠望 その11

(一昨日の続き)
 さて、ご存知のように太陽系の惑星はほぼ同心円状の軌道を描いているけれども、火星の軌道は地球と比べてややイビツになっている。ということは何を意味するかというと、見た目として軌道上で地球が火星を追い抜くときに、二つの惑星は接近をするわけだが、そのイビツさゆえ、その距離が短いときと長いときがあることになる。
 まあ火星も地球も同じ方向に周回しているので、なかなか接近せず、さらにその軌道の幅が狭いところでの接近というと、十何年に一回という割合になってくる。
 そんなことを知ったのは1971年の中学3年の頃、私ははたまた受験勉強もおろそかに、一部の世の中で騒がしい「世紀の大接近」とやらに心躍らせたのであった。
 当時持っていたのは、前にも書いた10センチのニュートン反射望遠鏡。普段はそれで火星を観ても、「赤いか茶色でんな」ってことぐらいしかわからない。
「でも大接近ですぜ、ダンナ。ようけ観えまっせ」という今でいうところのティザー・キャンペーンにはまってしまったのだ。でもその呼び込み、じゃなくてキャンペーンの言葉にあまりいつわりはなかった。3万円程度の反射望遠鏡でも火星の極冠、つまり白い極地方がしっかりと観える。
 この極冠は季節によって形を変えてくれる。それがまたスリリングだった。当時の説明だと炭酸ガスが固まったもので、極地方が夏の季節になると、小さくなっていく、その分が見えない反対側の極冠に移るのだ、と記憶している。
 その白さはたぶん私が望遠鏡で観た天体の中で一番、まばゆいモノだったに違いない。
(続きます)