ガラスの擁壁

さて、ベーコン展、その薄暗がりの中に浮かぶのは、たとえば阿鼻叫喚を瞬間冷凍したような空間である。最初のあたりに並べられた絵画の多くが背景が濃紺、ほとんだ黒とおぼしきそれに埋められていて、額は簡素な金色の枠に過ぎないが、その金色が覆う濃紺を、あえていえぱ引き立てている。絵画の前にはガラス板がある。
 この金色の額とガラス板は、ベーコン本人が展示の際に条件として指定したものだという。金と囲いとガラスの擁壁で、ベーコンの世界は客とは別の世界に留まったままであり続ける。