家の記憶 七

 さて、それではまた伯母の家に戻る。
 茶の間の黒い電話の向こうに、いつも伯母が水仕事をしていた台所があった。そこから長い廊下が伸びていて、物置代わりの部屋と従兄の部屋につながっていた。たしか従兄は私よりも七歳ぐらい年上で、つまりは小学生であった私にとって、大人でもなく、さりとて子どもでもない存在だったのだ。
 とても絵や工作がじょうずで、その部屋にも何枚もの絵や工作物が飾られていた。彼とはよく家の周辺のいろんな場所に出掛けていった。
 それはつまりちゃんとした大人とのお出掛けではなく、しかし子どもたちの遊びでもなく、微妙なあんばいなのだが、どんなに遠くまで歩いていっても、ちゃんとそこがどこかがわかっていて、もちろん確実に帰ることができたのに、たいそう感心したものだった。
 彼とはその家の庭でもいろいろと遊んだ。学生服の襟回りにはめるカラーは、激しく燃えるはずだというので、それをロケット燃料としてキャップにつめて、手作りの発射台にセットして火を付けたが、ただノズルからちょろちょろと燃え上がるだけで、そこから一センチも飛び上がらなかったのだが、こうしてしっかり覚えているということは、まさに飛びっきりそれが楽しかったからなのだろう。