五反田今昔ストーリー その二十八

 さて、先月は30日の続きではある。五反田の酔いどれの日々はまた続くのだ。
 前回、学校を卒業してしばらくしてから、またかつてのメンツで飲んだ話をチラリと書いたが、まさにそんな時はまったく変わりない居酒屋の光景が、疑似タイムマシンとしての効果よろしくその能力を発揮していたようなのだ。
 人にはもう完全に忘れていたと思っていたことが、何かのきっかけで思い出すことがある。先日も、とある古本チェーン店で、とある漫画本を眺めていて、その半世紀も前に読んでいた漫画のシーンに、吸い寄せられることがあった。
 ちょっと具体的に書くと、それは鉄腕アトムなのだが、強風に吹かれた彼がどこかで踏ん張っている場面があって、彼がその風に吹き飛ばされないために、自分の足を土台にリベットで固定したり、顔だけが飛ばされてしまい、ビヨヨヨーンとバネが伸びたりて、登場人物の女の子に挨拶するというその数コマが、まったく忘れていたはずなのに、見た瞬間に鮮明な記憶として甦ってくるのだった。
 まあ、それとはいろいろと違うわけだが、居酒屋にもそんな効能がある。で、相対するその日のメンツの表情をカモフラージュし、まさにあの日のあの場所に還してくれるというわけなのだ。
 それはすでに同窓会などでもみなさんご体験のことと思う。私のような年齢ともなれば、隠しようもない崩れ具合も、十歳ほど若ければ、またそれなりの効用はあるのが、その場の雰囲気といったものなのだ。
 ああ、また五反田から離れつつあるなぁ。
★ちなみに写真はほぼ内容と関係ないものを載せてますが、今回はしばらく雲場池の紅葉をお届けします。