五反田今昔ストーリー その二十九

 同窓会で一番交わされる言葉は、「みんな全然変わらないねぇ」である。三十年たっても、四十年たってもこれなんだが、変わらないはずがないじゃありませんか。
 これはまさにその場の放つ、大いなる幻影のなせる技なのだ(そんなタイギョーなことではないけど)。
 特にこの場合は個々の声とそのニュアンスに惑わされるのである。特に激しい変貌を遂げている外観に比べて、音声は骨格に左右されるので毀損率が低いのである。そしてそれを心のよすがとして、人は「変わっていない事態」を幻影することになる。つまり声に惑わされ、人に表皮に実存するものを忌み嫌い、その逃避行動としてかつての脳裏にあったものと置換するというわけなのだ。(あーあ、怒られる)
 これをブレヒトとは違って意味でいか食おう、じゃなくて異化作用と呼ぶことにしよう。
 そして人はやがて忘れ頃に送られてくる集合写真を観るに、その幻影は消えていくことになる。
 今日は五反田がまったく出てこないけど、いいか。