不必要の必要 その一

 だいぶ前から腕時計が停まっている。
 なので、当然のことながら出掛ける時に左腕にはめるものがない。少しさみしい気もするが、それもだんだんと気にならなくなる。
 ただ時間を知るためには、ポケットに入ったケータイを出さなくてはならない。それがやや不便ではあるが、そうなると今度は特別な場合以外、あまり時間そのものが気にならなくなる。まあ、いいかげんなのだ。
 そんなこんなで、しばらくまさに時間がたっていく。普通の腕時計なら、停まってすぐに街の時計屋さんで、千円かそこらで電池交換するのが普通だろうが、どういうわけかこの時計はその電池交換が無料なので、逆にその機会を逸しているのである。
 で、腕時計なし生活を一か月以上過ごしてから、ツレがそれを購入した時計店のあたりに行くというので、持っていってもらうことにした。
 でも電池交換なら店で済むと思うのだが、そこはデパートのテナント店なので、そのような技術を持った人がいないのか、それとも別に理由があるのか、とにかく帰ってきた彼女は預けてきたという。
 ということで、停まったために日常生活には必要のないことが証明されてしまった時計のない日々は続くのだが、もちろんまったく何の問題はない。ただ、それを気づかせてしまうというのは、商売的にあまりよろしくないことではないだろうか、と少し心配してみる。で、この話、また少し続く。