胃袋のうずき

 正月、最初に読んだ本は、ひさしぶりの川本三郎さん。二年ほど前に出ていたのだが、気づかなかった『君のいない食卓』である。
 奥さんを亡くされた川本さんが、かつての日々を思い出しつつ、ふだんの食事について、たんたんと綴っていく。その中に子どもの頃の記憶や旅先の出来事が挟み込まれる。 
 中でも海苔を二段に敷いた弁当の話には、ふとウルウルしてしまう。これを作っている人の顔がどうしても浮かんできてしまうのだ。
 ツレのお姉さんが住んでいる山梨の勝沼ぶとう郷駅が、景勝地として登場するのもうれしい。そこは二人で昨年初めて訪れたところ。また横道にはみ出すと、その夜、日帰りで入った温泉のホテルは、ドラマ「独身貴族」のパーティ会場となっていた。
 さらに私にはなじみ深い赤羽のまるます家も、Mとして出てくる。あの店にコイを食べに奥さんと出掛けてというのだ。ウナギの川栄にも寄っていただきたかった。
 この本は空腹どきに読むことをおすすめする。頭の細胞以上に胃の細胞もめいっぱい活動してくれる。
★そういえば、「今日はカモ鍋だ」といいながら公園を歩くと、いつもは近づいてくるカモたちが逃げていった。