キャラ立ちぬ

 『ギャバンの帽子、アルヌールのコート』を読んでいてつとに思うのは、まったく観ていない映画もなにか懐かしさを感じることだ。ちなみにこの本で取り上げられている32本のヨーロッパ映画の中で、観たことがあると記憶している(と面倒な表現になっているのは後ほど明らかになるはず)作品は「ウンベルトD」、「影」、「野いちご」、「橋」、「蜜の味」の5本のみ。しかし作品を紹介するときに関連する作品にも触れていて、その中にも観たことのある映画が何本かはある。こんなこともあり、またその多くがモノクロ映画ということで、懐かしさを感じたのだろう。 そしてこれらの映画、つまり1950年代に制作された映画に共通しているのは、いずれにも歴史そのものが刻まれているということ。一人の登場人物がいれば、その人が第二次大戦とどう関わったのかを、直接に描かずとも、表現されることになる。
 特にフランスやイタリアはドイツの占領下にある時代が、必然的にそのキャラクター付けをしてしまう。このあたりがアメリカ映画とは違う。アメリカ映画では代わりに大恐慌をどう生きたかで、人物のありようがわかるのかもしれないが、ヨーロッパのように他国を介さないので、単純な構図にしかならない。
 ところでこの本の写真で一番惹かれたのは昨日書いたフランソワーズ・アルヌールの写真だった。まったく知らなかった女優だけれど、石森章太郎さんのように、何か物語でも書くことがあったら、その名前を使ってみたいなぁ。