かくして、の現在。

 子どもの頃にテレビで50、60年代に制作された洋画を観ていたことを書いてきたけれど、それ自体が60年代のことなので、今では懐かしのシネマだけれど、実際には10年前ほどの「新しい映画」だったことになる。
 両親はそんな映画を観ながら、「あの俳優さん、どうしたのかしら」、「もう亡くなったはずだよ」、「ああ、そうだったわね」といった会話をしている。それを聞いてガキンチョの私は、テレビ画面で元気に走り回っている人が、すでにこの世にいないことがにわかに信じられなかった。
 数年前の彼らはよく映画を観に行っていて、そのせいか俳優の名前をたくさん知っていた。しかし50年代後半からは子育てに忙しく、出掛けて代わりにテレビで映画を鑑賞をしていたのだろう。それも世代的にはごく普通のことだったはずだ。
 そしてそんな世代が、時代を色濃く反映したヨーロッパ映画を楽しみことによって、庶民の精神史、つまりは彼らの価値観や認識方法にに大きく影響していたようにも思う。
 しかしその世代のほとんどがすでにこの世を去っている。かくしてこの現在があるわけだ。