駅が駅でなくなる時

駅が好きだ。もちろん列車や線路も好きだけど、たぶんそれとはちょっと、というかかなりニュアンスが違う意味で駅が好きなのである。
小さな駅はいいし、また大きな駅もいい。人が来てまた消えていく。乗り物が着いて出ていく。ただその繰り返しの中で、駅はそのまま残される。駅はひとつの到達点であり、また出発点である。私たちが駅と関わるのは「瞬時」に過ぎない。その短さゆえにその場はある趣きを持つ。
目的地へ行くために私はホームに立つ。そして列車が到着すればそれに乗り込む。そして駅は私のものではなくなる。しかしたまに駅のベンチに座ったまま、本の続きを読むために来る列車を見送ることがある。そんなとき、少しだけ落ち着かない気持ちになる。それはきっと駅が駅でなくなるからなのかもしれない。
 でもまあそんな時は本が本として自分の前に実存しているわけだから、駅にはちょっと横に立っていてもらおう。★写真はJR市ヶ谷駅。夜は外濠に列車がホームがそのまま映って何やら美しいのだ。