クラフト・エヴィング商會を「よむ」その一

oshikun2009-10-09

『じつは、わたくしこういうものです』
(クラフト・エヴィング商會・写真:坂本真典)
 「秒針音楽師」や「冷水塔守」といったとてもユニークな職業をまとめて紹介した一冊と思いきや、実はそんな職業はどこにも存在せず、登場する人たちも作り手の仲間たち。そんな人を食ったような本なのだが、その職業それぞけが「あったらいいのになぁ」と読者に思わせてしまうところが、かなりニクイ。
 ただ、今回これを書くためにバラリとそのページをめくってみたのだけれど、これはやはりその時代(といっても2002年、つまり7年ほど前に過ぎないのだけれど)の産物のような気がする。もちろんこれは個人的見解で、いまでもこの本にちょっとだけ心がなごむ人がたくさんいることだろう。
 朝日新聞の読書欄では嵐山光三郎さんが、これらの職業が実在すると思っているかのような紹介のしかたをしていたけれど、最後まで読むと「じつは、わたくし本当はこういうものです」としっかり種明かしがされている。
 「職業人」役をこなした人の中には小川洋子さんや最相葉月さんなどもいるので、美しき「誤解」はされないとは思うのだが、初出の『太陽』に連載当時はいろいろと問い合わせもあり、やや蛇足とも思える「ほんとうのことの開示」がされたのだろう。
 この本はたぶん『クラフト・エヴィング商會』を有名にした一冊だと思う。ほんらいこのユニットは、本の装丁や意匠、さらにはありえない事や物を作り出して発表していたので、この本の中にも何点かそれぞれの職業のアイテムとして、そのありえない物を提出している。
 ちなみに香納諒一さんの小説『夜空のむこう』には、雑誌の企画として「夜明け管理人」が登場するが、これはこの本の「時間管理人」を模したものに違いない。
 この本はさっき書いたように『太陽』の2000年1月号から12月号までの連載に、撮りおろしを加えて18人の「職業」を紹介する形に再構成したものだという。ひとつ苦言を呈すれば、最後の種明かしの「役者」のニコニコ顔の写真や作者との関係説明はいらないような気がする。簡単に実際の職業と名前だけの方がよりスマートでシャレていたのに、それがちょっと残念だ。
★もちろん本の装丁やレイアウトもクラフト・エヴィング商會吉田篤弘さんと吉田浩美さんが手掛けている。
★タイトル横の写真は「職業」のひとつ、バリトン・カフェを紹介したページ。