クラフト・エヴィング商會を「よむ」その八

oshikun2009-10-16


『どこかにいってしまったものたち』
クラフト・エヴィング商會

 これがクラフト・エヴィング商會名義で発行された最初の本です。最近の作品に較べるとその緻密さが際立っていますが、またデビュー作の常であるようにその後のエッセンスが網羅されているようでもあります。実際には展示会で一般に公開されたものをアレンジして、一冊にまとめられたということなのだが、これをどのように展示したかという点でもかなり興味深いのです。
 サブタイトルの『クラフト・エヴィング商會不在品目録1897-1952』とあるように、これは商品カタログの形を取っていますが、『ないもの、あります』が言葉遊びカタログならば、こちらは空想力遊びカタログといえるでしょう。最初に開いた当時の読者が、こういったアイテムを実際にあったものと思ったとしても不思議ではありません。この辺の信じてしまう度合いの絶妙なバランスもまた作り手たちの技量といえるとでしょう。しかしホント、心ならずも月の光を放射する「月光光線銃」や世界一小さい映画館である「卓上キネマハウス」など物欲を刺激されてしまいます。
 この本は何種類もの紙が使われているのですが、その中の青みがかったインクを使った紙はかなりうまく「黄ばんで」いて、ほんとうに年月が経ってしまったいると感じさせてくれますが、別のページはまた違う紙を使っていることから、そうではないことを気づかせてくれるのです。
 ちなみにあるところでクラフト・エヴィング商會のお二人が、帯も含めてデザインしているので、書影を掲載するときはぜひ帯び付きで撮影してほしいとおっしゃっているのですが、手元の本の帯はともすれば「どこかへいってしまったもの」になってしまっているので、このように帯無しで失礼いたします。★タイトル横の写真は「立体十四音響装置」といって一度の14もの蓄音機を使ってオーケストラの演奏を14のパートに分けて再生するというもの。同時にレコード針を下ろすために息の合った14人の人材を必要とするために一台も売れなかったとのこと。