クラフト・エヴィング商會を「よむ」その十

oshikun2009-10-18

『明治の文学』全25巻
ブッデザイン・吉田篤弘 吉田浩美

 坪内祐三さんが編集する明治文学大系の装丁を、クラフト・エヴィング商會のお二人が担当している。まず特徴的なのはその色。たぶん古めかしいネーミングがされていることが想像できるその色を、全体の色と「明治の文学」のタイトル部分で全25冊分、つまり50色セレクトしているのだが、これはかなりたいへんな作業だったに違いない。
 そしてクラフト・エヴィングらしいなぁと思うのは、最初のページにその作家のエッセンスを提示する部分。このシリーズは明治期の作家を基本的にはひとり一冊で紹介していくもの。手元には2冊しかないので他の本がどうなっているのかはわからないのだが、たぶんすべての本にはその作家に相応しいと考えられる書体で、その作品の一文が載せられているのだろう。おもしろいことに、その場所が絶妙に普通に場所とはちょっとずらしてあるのだ。雑誌でも単行本でも基本的には文字の入る部分は、版面(はんずら)といって規定されているのだが、このシリーズのこの部分だけは、少し左下に食い込んでいる。だから読書は最初にこのちょっとずれたことを味わうことになる。文字が断ち切りと呼ばれる紙の隅に近いと、製本時のちょっとしたズレがすぐにわかってしまうことになる。だかこんな僅かに思えることでも、実は本作りの上では相当の冒険なのだ。