佐々木譲さんを読む 02

oshikun2009-11-03


トークショー」や「講演会」

 本日の午後、池袋の旭屋書店で「映画『笑う警官』公開記念」の「シネマトーク」&「サイン会」が開催され、私も出掛けてきました。そんなことで今回は譲さんの「講演会」についてです。
 佐々木譲さんの講演会は、『武揚伝』の頃に、東京農業大学榎本武揚の話をお聞きしたのがたぶん最初で、そのあと『くろふね』の出版を記念して、横須賀で開かれた中島三郎助について講演、さらに紀伊国屋ホールの歴史を巡るトークショーなどが思い出されます。そしてそれらの主題は、歴史上の人物の寄って立つ精神、それを掴み取ることの面白さにあったような気がします。史実の中に物語を組み立てていくにあたって、譲さんは中島や榎本、そして江川太郎左衛門という、いわば書き手の同志を見つけたといえるのでしょう。
 その頃の講演会は資料を投影するなどして、ちょっと授業ぽかったのですが、それも史実のみが醸し出す面白さを論じるために必要だったからだと思います。
 一方、今回の「トークショー」は近作の『道警シリーズ』に関するもので、先ほどの幕末モノやかつての大戦秘話三部作とは違い、一見史実のシバリがないようにも思えます。ところがぎっちょん、譲さんはここでも、事実こそ自らの作品の重要な要素と考えているのだということが今回の「トークショー」でもわかりました。一般の人とはあまり関係性の無い警察機構を描くとき、作品の魅力と信憑性を併せ持つためには、徹底的な事実のしばりこそ必要なのです。
 そのことが明確になったのは、たぶん『警官の血』を書かれたことによると思います。戦後史の隙間に構築する物語世界は、それが虚構であればこそ、事実という高度な品質を伴った土台と部材なくしては簡単に崩落してしまいます。
 「トークショー」は時間が短く、その物語の魅力は製作過程のお披露目などはあまりなかったのですが、それでも言葉の端はしには、その表現を抑えることこそ大事といったお話を聞くことができました。
 ところで今回は『笑う警官』の映画化を記念するものだったのですが、この作品では権力と対峙する物語が展開します。たぶん角川春樹社長も、この権力との対峙ゆえにひさびさのメガホンを取ったのでしょう。それに比して『巡査の休日』はいわば警官の一般的な職務の展開が物語となっています。もし、この「トークショー」に深さが足りないと感じた人がいるとすれば、その短い時間に加えて、この差異も影響しているのかもしれませんね。
★写真は映画『笑う警官』のチラシの一部。タイトル横は『巡査の休日』に頂いた佐々木譲さんのサイン。以前頂いたものに較べるとかなり丸みを帯びている。