月は笑っていただろうか。

池袋で用事を済ませての帰り。
ふらりと倉庫のような古本屋に寄る。
すると何冊か並んでいる安部公房の『笑う月』。
一冊、帯のないものを取ると680円。
帯付きはその倍だった。
本はビニールに包まれている。
版型は大きく、グラムあたりの値段は安い。
しかし帯だけで倍になることへのちょっといやな気持ちと、
満杯の自分の書棚を思って、本を戻す。
店を出て、振り返るとビルの間から月が出ていた。
すこし歩いて、サービス券でジュンク堂のコーヒーを飲もう。
ここで岡崎武志さんの『女子の古本屋』を終わりまで読んでしまおう。
この本の最後のエピソードは、娘が拾ったボタンを手にのせて、
父親が中原中也の『月夜の浜辺』を諳んじる。
そして彼は「よかったね」とボタンを娘に返す。
さて、さっきの月は笑っていたのだろうか。