柴又、記憶のうちに14

 文房具店で学んだこと
 この店はお菓子と雑誌、そして文具を売っていた。しかしいつもそのコーナーを回遊するように品定めしたのは意外UBSI文具売り場だった。面積にすれば、たぶん20平米にも満たない非常に狭い場所だったが、それでも子どもには細々として文具が輝く小宇宙だったのだろう。そこで買った物は私の記憶の惑星系をカタチ作っている。
 例えば100円のかなりチープな定期入れ。ほんとうは500円の定期入れ付きの財布が欲しかったが、とても手が出さない。もちろん定期券は使っていなかった。そもそも定期券という存在すら知らなかったかもしれない。それでは何を入れたかといえば、ジャイアントロボのカードである。それで自分も隊員になった気分のだからかなりコストパフォーマンスがいい。欲しいものがヘルメットや電子銃でないところがさらにいい。
 このドラマの最終回はテレビの調子が悪く、ちゃんと見ることができなかった。確かジャイアントロボのリモコンをなくした少年が涙でロボに訴えると、不思議にそれに応えてくれる、というものだったはず。しかしこちらはそれを見られずに涙したのだった。
 ディズニーのトランプを買ったのもここだった。ケースの絵が立体的に見えて、角度を変えるとキャラクターがスッスッと動く。奥の風景がぼんやりとしていて、その中の家の窓がふと開いても不思議ではないように思えた。
 シャープペンもここで買った。0.5ミリの芯は高いので、0.9ミリ芯のものを買う。それは空想の中でいつでも宇宙ロケットになってくれた。それでも鉛筆からシャープペンに持ち替えたので、少し大人になった気分だった。しかし、このロケット、よく芯が詰まった。
 レポート用紙というものもここで発見した。大学生は見かけたことがなかったが、ボールペンで字を書けば、気持ちは中学生ぐらいにはなった。漫画を描くケント紙も買った。そのツルツルした感触には高級感さえ覚えた。このケント紙に黒インクの付けペンで漫画を描けば、もう気持ちだけはプロ級だった。
 その店で小学生は大人の練習をしていたのだろう。100円の定期入れを見つめて、買おうか買うまいか時間思案にくれる子どもに、その店の人はよくぞつきあってくれたものだ。そしてそこで思いっきり背伸びした小学生は、相応しい背丈に戻るため、向かいの駄菓子屋へと走るのである。★店構えは昔と変わらないが、品揃えはかなり変化したようだ。