柴又、記憶のうちに26

 お肉屋さんの儲け
 柴又再訪の「16」で取り上げた北の湯の目の前には、一軒の肉屋さんがある。シャッターは下りていたけれど、いまも健在のようだった。
 かつての日々、ここ店頭には小学校の上級生や中学生の男の子が列をなしていた。彼らは一様にひとり一枚のコロッケを求めていたのだ。店の親父さんがコロッケにソースをかけて、食べやすいように紙で包む。その一枚一枚が子どもたちの手渡す10円と交換されていく。あんなことしていては店の儲けはないわよね、と母親はいっていたがさてどうだろうか。彼女は直接的には禁止をしていなかったと思うが、そんな「ソフト」な言い方で「買い食い」を揶揄していたのかもしれない。
 買い食いといえばやはり駄菓子屋である。このことについては「15」ですでに書いたけど、肉屋の店頭に立つ彼らの胃袋は、そういった腹に溜まらない「美味」なるものに満足しなくなっていたのだろう。私にしたところで、彼らが頬張る湯気をたてていそうなコロッケと、何より彼らのうれしそうな顔を見て、何度か唾を飲み込んだことがあったはずだ。きっと肉屋の親父さんにとってもそれが「儲け」だったのだろう。
★さて自分がここでコロッケを買ったかどうかは記憶にない。ちゃんとした食べ物を自分の小遣いで買うのはもったいないと考えていたのだろうか。