柴又、記憶のうちに30 最終回

 時を刻む駅前の寅さん
 この「連載」の一回目で書いたように、私が柴又に住んだのは小学2年の終わりから6年の終わりまでの4年間だけなのだが、執拗なまでにここにいろいろと書きながら、まだ書き足らない気分でいる。しかし数少ない読者の皆さんも、いい加減飽きてきたようなので、そろそろエンドマークを付けることにする。
 しかしこのように町の隅々を記憶しているというのは、子どもゆえのことだろう。そしてその場所その場所に、何らかの思い出が潜んでいるのも、そこが遊び場だったからに他ならないといえる。
 この40年で東京は大きく変貌してしまったが、柴又はいわば「小さく変貌」しただけだった。すでに無くなった店も多いが、柴又駅の駅前広場はどうにか以前の雰囲気を残している。そのことがこの町に最初の一歩を印す人を安心させる。残念なことに広場を囲む店舗の多くはシャッターが下ろされているが、駅ビルが建てられることもない。
 この広場の真ん中にはかつて広告塔が建てられていた。そこには何枚もガラスがはめられていて、一枚一枚に商店の名前が書いてあった。いまその場所には寅さんの銅像とモニュメントが建っている。これが40年間のちょっとした相違点だ。寅さんシリーズが終わってもう十年以上が経つ。しかし柴又が別の物語を必要とするのは、だいぶ先のことになるだろう。柴又にこれ以上似つかわしい物語は、たぶんないのだから。★寅さんの銅像にカメラを向ける人は跡を絶たない。おっと、かくいう私もそのひとりではあった。