十年前の住まい探し01

oshikun2010-01-28

巨万を投じる「趣味」
 十年ほど前、マンションでも買おうかなと考え始めたのだが、自分でも不思議なくらいに緊張感がなかった。家庭状況がそうさせているわけではないので、誤解を恐れずにいえば趣味のたぐいといっていいのかもしれない。今までも何度か家が欲しいなという気分になって、建築家の作品を集めた雑誌を買ったり、家造りの本を読んだりしたことがあるけれど、今回もそんなノリの延長だった。今までと今回が違うのは、ほんとうにマンションを買ってしまったことぐらいなのだ。
 今までは一戸建ても興味の対象だったが、今回は一応マンションに絞った。これまで一戸建てにこだわり過ぎていたので、そのことに「趣味として飽きていた」のだろう。一戸建ては魅力的で、自分の好みを存分に取り入れることができる。しかしそれはまた最大のネックでもある。いざ造ろうとなると膨大な時間と努力を必要とし、その膨大な努力への躊躇が、第一歩を踏み出すことへの障害にもなる。その点、マンションはそうとうに楽なのだ。
 ここでマンションといっているのは、一般的な集合住宅のこと。マンションをそのような意味で用いているのはたぶん日本だけで、さらにそのマンションにもいろいろあり、一戸建て以上に手間が掛かりそうなコーポラクティブハウスもその一例だけれど、もちろんそういったモノは除外する。
 そしてマンションといえども、モデルルームと模型と図面をじっくりと見て、自分の貧しい想像力をピートアップさせて、自らの最終結論を出さなければならないのだから、一戸建てと違った力量を必要とする。できれば完成したものを見てから結論を出したいが、今と違ってその頃完成時に残っている物件といえば、利便性のない売れ残り物件という場合が多かったである。
 しかしそもそもどうして分譲マンションを買う必要があるのか、賃貸ではなぜいけないのかという疑問が浮き上がる。結論としていえるのは、分譲の必要ないし、賃貸でいけないこともないのである。そこが冒頭に書いたように「趣味」であるゆえんだ。細かい希望としては、本を置く空間がもっと欲しいとか、大きなソファに寝ころびたいとか、客間があればいいとか、といったことはある。しかしそんなことは、息子と娘がお年頃とか、介護する老人と同居するといった事情とは別の次元の「どうでもいいこと」の範疇に入るのだ。
 切実な家庭の事情はないが、買うとすれば一応の条件のようなものはある。それは立地と価格である。当時の勤め先は山手線高田馬場駅、あるいは営団地下鉄東西線落合駅から徒歩ほぼ10分の場所にあった。それを考慮に入れたい。近くに学校があった方がいいとか、病院はどこだとか、安い商店街が必要などといったことはほぼどうでもいい。それよりも雰囲気とか、景観とかどうとでも取れそうなものに一応の関心がある。ただしこれも年月で変わるものなので、目の前の素敵なお屋敷が、パチンコ屋になっていたということもあり得る。
 一方、資金は普通のマンション購入者よりは多めかもしれない。全財産を注ぎ込めば、80?程度のマンションなら購入できる。しかし私は「石橋を叩いて砕く」程度に用心深く、宵越しの金を抱えていないと寝ることもできない性分。だから、とりあえず出す金は3000万円台。足りない部分は1000〜2000万円ほどをローンで払うということになる。2000万円のローンは少しキツイかなと思った。私は20年の歳月をイメージできず、金利もかさむことから10年程度で完済できる範囲にしたいと考えていた。幸い低金利時代だったので計算ではどうにかなる。だから総額は高くて5000万円台。これは物件を見ていく時の「あきらめ限界線」にした。
 そんな下準備をしてから、私はマンション探しの第一歩を印すことになった。2001年の春のことである。いつもながらに第一歩までが長いのだ。
★タイトル横の木の家は、忍澤ハルエ作。以降も同様。