佐々木譲さんを読む 04

 22日に「オール読物」が発売された。
 第142回の直木賞決定発表号のその表紙に佐々木譲さんの名前がある。読者歴21年の私がこの一冊の雑誌を手に取ることは、まさに感慨無量の瞬間である。譲さんの作家歴は31年なので、リアルタイムでは最初の頃の作品は読んではいないのだが、出会って最初の『ベルリン飛行指令』の精緻さと文章そのものの巧みさに、まず魅了されてしまった。それが譲さんも私も30歳代のことなのだから、光陰は「零戦」のごとし、である。
 いらい既刊の作品と新刊を、むさぼるような読み続けた。書店にある既刊本を読み尽くし、新刊のない時期は、飢餓感に襲われて古書店を徘徊し、『白い殺戮者』や『鉄騎兵、跳んだ』、『死の色の封印』、さらには『ベイシティ恋急行』や『そばにいつもエンジェル』までも薄暗い書棚の中から探し出していた。
 そんな中で、勝手に私がベスト5を挙げるとすれば、やはり前述の「ベルリン」と『エトロフ発緊急電』、『ストックホルムの密使』の第二次大戦三部作と『武揚伝』、そして『真夜中の遠い彼方』(『新宿のありふれた夜』に改題)ということになりそうだが、『武揚伝』の壮大な後日談といえる『五稜郭残党伝』や『北辰群盗録』も捨てがたい。いやいやスタイリッシュな『サンクスギビング・ママ』や、限りなく現実に近い架空企業モノの『疾駆する夢』はどうするのだという声が頭の中で響く。
 ともあれ、今回の受賞で「胸のつかえ」のようなモノが消えていった。誤解を恐れずに一読者の偏見を言わせていただければ、直木賞の受賞は、栄誉に浴すというよりも、遅ればせながらも、作家の才能がそれにふさわしい評価を得たということではないだろうか。これでもう「業績を欠く」(個人の感想です)評者から、トンチンカンな評価をされることもない(今回のIさんのことではありません)。なによりもそれが精神衛生上好ましい成果であるといえるだろう。しかし譲さんのことだ。いままでの度重なる「なにくそ」をエネルギーとしていたのなら、それはそれで心配ではある、のだが。
 私は上記のベストには、あえて「受賞作」を含めた最近の「警察モノ」を挙げなかった。『笑う警官』などは、その展開の小気味よさと全体の価値観の確かさを大いに楽しませてもらった作品だが、そろそろ歴史大作に戻ってきてもらいたいのである。譲さんの視座は一定の史実の中でこそ大きな想像力の翼を持つと思う。グローバルな場所と時間を舞台にした、この先いつか書き上げるであろう作品は、たぶん私のベスト1になるに違いない。

ということで皆様、かなりエラソーにスミマセンでした。★「オール読物」の表紙とデビュー作『鉄騎兵、跳んだ』を含む短編集。