十年前の住まい探し18

oshikun2010-02-27

 中古物件の不運
 私のマンション探しの対象は都内とは限らなかった。しかし実家のある埼玉県の草加市周辺を中心に、いくつかの物件をネットで調べてみたのだが、これといったモノはあまり見当たらなかった。そんな中で実際に「現地」まで行った二つの物件について書いてみよう。
 ひとつは実家の最寄りの駅から実家とは反対方向にクルマで10分ほどの、中古マンションである。まだ人が住んでいて、日にちを決めて外出して内覧させるという方式だった。最上階で床面積は90㎡ほど。バルコニーも広々としている。間取りが田の字型でないというのも好ましいのだが、いろいろと複雑に入り組んでいて使いにくいかもしれない。しかしその点は実際に住んでみないとわからないこと。駐車場も空きがあるという。
 肝心の価格は同等の新築よりも1000万円以上安いようだ。こう見ていくとかなりいい物件であったには違いない。しかし正直いって、トキメキ感がまったく浮かんでこないのだ。たぶん居住者の生活用具がそのまま残されていたせいで、私の「虚構の生活空間」が生まれ出ることを阻害されたのだろう。しかも天気が良くなかった。物件へと通じる路地も、バルコニーから眺める景色も、駐車場の気配も、そのためにそれ相当のマイナスポイントが付いてしまうのだ。
 不動産そのものは、即物的な存在であるのだけれど、それを購入しようとする側は多分に不可解なイメージでそれを評価する。「生活感」と「天気」はまさに中古物件の大敵であることを、身をもって体験したといえるだろう。もしこの日、この物件に何も置いてなくて、天気が良くて遠くまで見通せたとしたら、私の判断はまた変わっていたかもしれない。
 もうひとつの埼玉物件は、川口市の新築マンションだった。といっても現在の東川口駅に近く、川口市の中心からはかなり東側にあり、実家にも近かった。埼玉高速鉄道やそれに繋がる南北線がもうすぐ開通するので、東京に通うことと実家の近くということの両方をかなえる物件だったのである。
 価格も都内の同等のものと比べて60%ほどだろうか。駅までも歩いて10分程度の低層階マンション。ただし間取りは典型的な田の字型で、ご丁寧に戸建て風の玄関が付いている。これはいわばセンスの問題だ。マンションを戸建てに擬するという精神はあまり好きではない。もちろん各戸の前にスペースを空けて、さらに外部の扉を設けることで、プライバシーの保護や自転車置き場にするという利便性があるのはわかる。しかし毎日帰宅する時に偽物の門柱を抜けるのは、趣味の問題として「気持ちが悪い」。
 しかしとにかくモデルルームを見に行こうとクルマを走らせる。建築現場は川に面していて、それ自体はいいのだけれど、その向こうに煙をモクモクと立てている工場があって、川面もかなり汚れているようだった。私のクルマはモデルルームを素通りすることとなった。