十年前の住まい探し19

oshikun2010-03-01

 中古物件の属性
 中古マンションの情報は、ネットからの入手方法もあるのだけれど、私の場合はチラシに頼っていたようだ。当然チラシだと自分の住んでいる周辺の情報しか掴めない。そういったことからいうと、それは購入というよりも、好奇心を満たすためだったのかもしれない。
 前回は埼玉県の実家に近い中古物件のことを書いたけれども、当時住んでいた都内の新宿区上落合から比較的近い場所にある中古物件をふたつほどチラシで見つけて、出かけたことがある。
 ひとつが新大久保と高田馬場のほぼ真ん中、山手線の近くにそびえ立つ有名物件である。それはマスコミでバブルの象徴とも喧伝されて、住むためというよりはむしろ金融商品であるかのように捉えられていた、ある意味不幸を背に負ったマンションだった。私がチラシで見た物件は80㎡と少しの床面積で、5000万円を少し欠けるぐらいの価格と記憶している。階数もかなり高く、少し靄の出ていた中野方向を睥睨できた。いま「睥睨」と書いたけれども、それもこのマンションの威容ゆえのことである。
 だが新築マンションのモデルルームを見てきた眼からすると、まだ築年数が浅いとはいえ、一度ひとの住んだマンションは、たとえしっかり掃除されていても、その雰囲気を払拭するのは難しいことのようだった。玄関近くの隅の汚れやキッチンの焦げ付き、トイレの経年変化などなど、いたるところに過去の影が浮かび上がっている。徹底的なリフォームをすれば、そういったものも消えていくかもしれないが、オーナーは一般的な清掃で、事を済まそうとしたのだろう。確かに住むためには、リフォームなど必要ない程度の劣化ではある。しかし売るためには、さてどうだったのだろうか。
 この物件の最寄駅は、わずかな差で高田馬場ではなく新大久保となる。そのアプローチが、この物件にはちょっとそぐわない。バブルの頃は、何でもないことだったはずだが、十年前、つまり「住むため」にはかなりの弱点となっていたのだ。近くの大きな公園や「文化施設」もそれを覆い隠すことはできない。とにかくこの物件は、バブルの属性を持ち続けているといわなくてはならない。それを住む人が心地よいと感じるかどうかで、その評価は分かれることだろう。
 もうひとつの中古物件は東中野の北、早稲田通りを山手通りの交差点から少し中野方向に行ったところにあった。築年数が20年ほどで、もう減価償却が終わっていそうな物件だった。そこのユニークな構造を見てみたいがゆえに出かけてみたのだ。
 手前に駐車場があり、構えも個々の仕様も古めかしい。オートロックでないエントランスを入ると、最上階近くまで音のたてるエレベーターで上がる。正確に言うとそれは最上階のひとつ下だった。というのも、この物件はメゾネットタイプだったからだ。ドアのあるフロアとその上のフロアの2層が、サンドイッチ状に一戸となっている。当然なことに床面積も100㎡以上だろう。価格も床面積からすればかなり安い。このような物件は最近では珍しくないが、何せ築20年ほどの物件、つまり今から30年も前ともなると稀有な存在だったのではないだろうか。
 室内はほどよく清掃されていて、新大久保の物件よりも清潔なほどだった。しかし何せ20年である。私はいい勉強になったと思いつつエレベーターを降りた。メゾネットという属性も、20年という歳月の前にはその意味を薄れさせるのである。