十年前の住まい探し22

oshikun2010-03-07

 「未知の駅」に到着
 中野の営業所で私は八嶋智人似の営業マンと少し話をした。
 彼はいう。
「感想を聞かせてください」
 私は答える。
「マンション全体としては冒険しているし、一戸一個も個性的。だけど、廊下とリビングとの間にアールのある段差が付いている部屋、あれなんかはカラオケスナックに見えてしまうんですよ。そういった傾向は他の部屋も同じで、その方向が私の好みではないということなのかもしれませんね」
 彼は暗く頷いた。
 私はその営業所で浮間舟渡の物件、マンション「浮間舟渡A」のパンフレットを見つける。そこは以前、仕事帰りに何回か通りかかり、駅前の大きな池のある公園に魅かれた場所だった。だがその物件はこの営業所の管轄ではないという。
 もうすぐ夕方だが、私はそこにいってみたいと思った。そして中野駅に向かった。ホームに着いて、下を眺めると、ちょうど八嶋智人似が渋い顔のまま、駅に近づいてくるところだった。
 そして40分後、私は浮間舟渡駅に着いた。ここで降りるのは初めてだった。駅に特徴はない。赤羽以北の埼京線の駅はどれもほとんど同じに見える。それに比べると以前から赤羽線として路線が伸びていた板橋駅十条駅は、地元住民の顔がうかがえる庶民的な駅だ。特に十条駅は踏み切り待ちをしている人の顔に、車内から手を伸ばせば届いてしまいそうなほど「庶民」的である。
 それでも、浮間舟渡駅はその前の浮間公園のおかげで、どうにかサマになっている。
 改札を出るとマンションのチラシを配っていた。見ると目的の「浮間舟渡A」とは違うマンションの案内だった。背の高い物件のイラストが載っていて、歩きながら見上げると、駅前ロータリーの北側に、15階程度まで建ち上がっているマンションがあった。
 「しかし高層マンションって、値段も高いんだろうなぁ」と思って歩いていると、今度は目的のチラシを配っている女の子に出会う。彼女にモデルルームの場所を聞いてそちらに向かった。駅からは6、7分の距離だ。
 こちらの物件は6割がた完成していて、その目の前にモデルルームがあった。造りは郊外の倉庫のようだ。この不動産会社は、間取りをちゃんと見せるモデルルームは造らない方針だということをマンション「鷺宮B」で聞いたが、ここは違うようだ。どういった理由からなのかは、聞くのを忘れてしまったが。
 もう時間は夕方の部類に入りそうだった。だからなのかそのモデルルームは暗い感じがした。