浅草土産は水上機

oshikun2010-03-29

 先日、フラリと浅草に出かけた。何年ぶりだろうか。
 子どもの頃にはよく親に連れられてきていた。松屋の屋上や新世界では、いろいろな遊具を思う存分楽しんだはずだが、記憶そのものがかなり夢うつつになっている。それでも松屋の方は何枚かの写真が残っているので、映画『2001年宇宙の旅』の宇宙艇の先鞭ともいえるカプセルに、勇んで乗り込んだあたりは確認できる。
 それに反して、新世界の記憶はあいまいである。ただ大きなホールを中心にして、円を書くように小振りのアトラクションが並んでいる俯瞰図の残像は、まだ消えてはいない。それがほんとうにあったものなのか、それともいつの日か見た夢の記憶なのかは定かではない。でもその記憶自体は、スティーヴン・ミルハウザーの小説『イン・ザ・ペニー・アーケード』を読む際の、私の後景になっている。
 そういった記憶と比べると、どんな記憶でもいえることなのだが、浅草の街はかなり小さい。しかし私の記憶の中の浅草は、これからもかつての大きさのままだろう。そしてむしろ昔のよすがは、あたりを徘徊する人にこそあるようだ。
 ぶつぶつと何かをかなり大きな声でしゃべりながら、人とニヤミスしつつ歩き回っているカメラマン。彼は何人かの地元の人とも親しげに話していたので、観光客ではない。また警官に職務質問されるおじさん、彼が何を「犯した」のかは知らないが、すぐにやや遠く人垣ができては消えていった。またかなりキツイ眼差しを周囲に放射している老人、彼と視線を合わせてしまうと、自分の身体ごとその瞳に捕捉されてしまいそうだ。そういったちょっとした「フリーク」の存在もまた浅草らしさではあるまいか。
 無料休憩所で持参のサンドイッチとワインの小瓶。アルコール禁止の張り紙はそのあと別の場所で見つけたけど、あとの祭り。お茶が出てくる機械を4、5人のおじさんがガードしている。聞けばただ今準備中とのこと。動き出した機械がまた止まる。聞けば今お茶の葉を代えているという。ただお湯を沸かして、お茶を煎れた方が早いと思うのだが、これもまた浅草的であるのかもしれない。
 浅草寺の境内を散策し、花やしきを外から眺め、アンパンを買って、大学芋屋はしまっていて、ロック座を斜めになめて、鞄屋の前で待たされて、隅田川の遊覧船とカモメに挨拶をして、スカイツリーを見上げて、浅草見物は終わり。おっと帰りがけの地下鉄銀座線の浅草駅、その改札の近くが、そのまんま昔の記憶の小さな商店街ではないか、そこに入って夢の続きを見たかったのだが、ツレに袖を引っ張られて、そのままスイカを改札口に入れざるを得なかった。残念至極。
★私の浅草土産は、浅草とは何のゆかりもない『紅の豚』のキャラクターグッズである。ポルコは体長30ミリ。飛行艇は全幅40ミリ。写真で大きくしてみると、アラが目立つかもしれないが、この小ささではかなり緻密に出来ているように思う。
 こんな場所にエンジンを持ってくるなんて奇抜な飛行機はないだろう、と最初は思ったのだけれど、この飛行艇は実際のものをモデルにしているようだ。それにしても小型の飛行艇として、胴体そのものをフロートにしているというのは、珍しいのではないか。
 ちなみにブログに載せようとして、観光土産がヒコーキ続きなのに、初めて気づいた次第。このあと、ポルコは私の携帯電話にピングーを引き継いでつながれ、飛行艇の方は棚の上に他のヒコーキたちといっしょに並んでいる。