佐々木譲さんを読む 06

 佐々木譲さんの直木賞受賞後、初の連載小説が「小説新潮」で始まった。『北帰行』(角川書店)の帯には、「受賞後第一作」と銘打ってあるけれど、その作品は「本の旅人」で連載されていたものなので、「その後」というと、この「小説新潮」の『警官の条件』が文字通りの「第一作」となる。
 しかし大好きな作家さんでも、正直いって雑誌を毎月買い続けるのは、なかなかシンドイ、といいつつも、『警官の血』や『暴雪圏』のときは書店や古本屋(失礼!)で、「小説新潮」を途中まで買い続けた。もちろん他の作品もちゃんと読めば、決して高くはないのだが、いつのまにかひと月がたってしまい、読んだのは譲さんの作品だけという事態に結局なってしまうのだ。
 だから、今回の『警官の条件』のぐっと我慢をして、単行本になるまで掲載誌を買わないことにしよう、と思っていた。しかしやはり編集者はあざといのではある。なんと表紙に譲さんの御尊顔を持ってきたのだ。これではファンとして買わざるを得ないではないか。
 そして読んでみる。プロローグの置き方がまずは見事である。導入を都会ではない海辺に持ってきて、しかも重要人物が小型船に乗って登場するという設定は、続編という意味合いにおいてもかなり気が利いている。こういった作品の空間的な広がり感は、その後が限られた場所で展開するだけに効果的だと思う。
 物語は『警官の血』のラストを少しだけフィードバックする。同じ場面が別の視点から描かれていく。それはまた『警官の血』の読後感を微妙に裏切っていく。
 そして読者は、再び『警官の血』で解決されていない大きな疑問を思い出す。大団円の結末の中で、そこに置かれていながら、省みられなかった大事な要素。それが今回の作品ではキーとなるのだろう。
 しかしチト困った。頭の中では、あの人は当然のこととして佐藤サンなのだが、あの彼が伊藤クンさんではなく、吉岡クンになってしまうのだ。このままだと、きっと私の読書中のイメージは混乱してくることだろう。
 ところで『小説新潮』の次号はなんと「官能小説」の特集だという。そして目次にこの小説が集中連載とある。いやはや編集者はホントにあざとい。